東京魔人学園剣風帖「剣姫変」

第壱話【転校生】其ノ壱




1998年、4月某日。
新宿都立 魔神学園高等学校。


春風薫るこの季節に、私は大切な仲間達と出会った・・・。

喜びや悲しみも、怒りも悲しみも・・・ここで分かちあい・・・。

何度となく傷つき合い、時には助け合って進んだその道・・・。

どのような困難が待ち受けようとも、必ずや明日が訪れると信じて・・・。


宿星を巡る戦いは・・・・ここから始まる。






魔神学園―――――――3−C教室



新しい季節、新しい日常。
新しい立場に、新しい生活。

そして・・・・新しい出会い。


教室内の生徒達は新たに取り巻かれ、新調された周囲の空気に形容し難い高揚
感と期待感・・・。
さらには若干の不安を孕ませた面持ちで各自の時間を過ごしていた。


―――――ねえねえ、昨日のテレビ見た?

――――――あッ、アタシ見逃しちゃった〜。

―――――あ〜あ勿体無い〜、面白かったのよあの番組。

――――――えッ、ちょっと詳しく聞かせてよォ〜!



―――――ガラララララ・・・・


各々が紡ぎ出す他愛も無い痴話、快活な笑い声・・・・そんな新学期特有の
雰囲気が、突然開かれた扉の音によって更にその騒々しさを際立たせていった。

開かれた扉から、1人の男子生徒が急ぎ足で室内に入って来る。



「ふぅ〜・・・予鈴前ギリギリ、なんとか間に合ったぜ・・・。」


安堵の息を吐きながら、その男子生徒は自分の席へ遠慮なく座った。
友人の予期せぬ到着に気付いたのか、2人の女子生徒がその生徒の元へと歩み
寄っていく。


「あれ?京一ぃ・・・・。
 今日は珍しく早いじゃない、何か変な物でも食べた?
 あ、ひょっとして・・・これ以上授業サボったら卒業できないとか・・・。」


「んな訳ねぇだろッ!!
 ったく、たまには俺だって時間通りに来る事ぐらいあるぜッ!」 


「へぇ〜、あの万年遅刻男の京一がねぇ・・・・・本当かなぁ〜?」


唐突に頭上から降ってきた女子生徒の理不尽な言葉に、その男子生徒は苛立ち
を抑える事無く声を荒げ反論した。


「長ったらしく言ってんじゃねえよッ、あ〜・・・そういや醍醐はどうしたん
 だ?
 姿が見えねぇが・・・。」

「え、醍醐クン?
 う〜ん、まだ来てないみたいだけど・・・・。」


「・・・大方、部室に篭ってトレーニングでもしてんだろうよ。
 ったく、あいつも物好きだよな・・・ありゃ、絶対格闘オタクだぜ・・・。」


すると、もう1人の女子生徒が会話に加わる。


「うふふふ・・・京一君ったら。
 もしかして・・・・今日遅刻しなかったのは、転校生の事が楽しみだったか
 らなんじゃないかしら?」


「へへっ・・・・生徒会長様にはお見通しか。
 まぁ、アン子からの事前情報で女子だって事は分かってたからなッ。
 魔神一のイイ男である、この蓬莱寺京一様としては・・・是非お近づきにな
 っとかないとなぁ〜って思ってよ♪」


その歯に着せぬ発言に、短髪の女子生徒は即座に反応する。


「はぁ・・・そんな事だろうと思ったよ。
 今更ながらに思い出したよ・・・キミが馬鹿だって事をさ。」


「・・・けっ、言ってろッ!
 俺はなぁ・・・今年こそは、綺麗なお姉ちゃんと有意義な高校生活を満喫す
 るって決めてんだッ!!」


―――――ガラララララ・・・・


男子生徒の肥大したあまりの妄想に、2人とも苦笑いを浮かべるばかり。
そこまで話が進むと、再び前方の扉が開かれた。

金色に輝く髪をたなびかせながら、伸びやかな体躯の女性教師が入って来る。


「・・・あっ、先生が来られたみたい。
 小蒔、席に戻りましょう。
 京一君・・・それじゃあ。」

「ウン、そうだね。
 じゃ〜ね、京一・・・また後で。」


「おう・・・後でな。
 へへッ・・・さ〜てと、ようやくご登場か・・・どんなコか楽しみだぜ。」



―――――起立っ。


礼―――――。


―――――着席。


「Good Morning Everybody.」


『Good Morning Miss. Maria.』


「おはよう。
 フフ・・・みんな揃ってるみたいね。」


流暢な英語の挨拶がなされ、それに続いて生徒達も英語で女性教師マリア・
アルカードに挨拶を返す。

そのあと手早く出席を取り終ると、マリアはHRを始める前に皆さんにお知ら
せがあります、と話を切り出した。


「既に知っている人もいるかと思うけど、今日から新しく皆さんと一緒に勉強
 する事になった、転校生のコを紹介します。
 ・・・さあ、入ってらしゃい。」


マリアの眼差しが扉へ移るのと同時に、生徒達の視線もまた一挙にそちらへと
注がれる。
最大限に高まった期待と好奇の念、そしてある種異様な緊張感が教室内に流れ
る中、一人の女子高生がゆったりとした歩調で静かに教室へと入ってくる。
その右手には、布袋に包まれた細長い物体が握られている。

動きに無駄は一切感じられず、緊張した雰囲気を微塵も感じさせない堂々とし
た立ち振る舞いに、生徒達は静まり返っていく。
・・・マリアの隣まで歩み寄ると、髪を少しだけはためかせて動きを止めた。

若干外はねを伴い、臀部までを覆い尽くす美しい黒髪。
顔立ちも外はねを持った前髪に彩られ、吸い込まれるような美しさを醸し出し
す淡い蒼を称えた瞳。
さらにそれをも霞ませる程の美貌と共に、平均以上の背としなやかさを備えた
その体躯が、これ以上無い位に彼女の女性らしさを際立たせている。

顔の表情はさしたる緊張もなく無表情に近い面持ちながら、彼女から放たれて
いる穏やかな≪氣≫が、生徒達の不快感を煽らせない最大の原因となっている
ようだ。

正に「完全無欠」という言葉が浮かぶようなその姿に、思わず教室中が感嘆の
声を漏らした。


黒板に名前を書いて簡単な自己紹介をしてもらえるかしら、そうマリアに促
され、女子高生は綺麗な字で自分の名前を書き綴る。



―――――皇海 聖


名前を書き終ると、聖は再度生徒側へ体を戻した。


「熊本より東京に転校して参りました、皇海聖(おうみ ひじり)といいます。
 本日より皆さんと勉学を共にする事になりました。
 宜しくお願いします。」


容姿によく映える、適度な低さを持ったハスキーな声。
再び教室中が恍惚の溜息を漏らす。


「皇海サンは、御家族の事情でつい先日こちらに引っ越してきたばかりなの。
 分からないトコロが多くて戸惑うかもしれないから・・・みんな、色々親身
 になって教えてあげてね。」

ここまで彼女が話し終えると、教室内がにわかにざわめき出した。
大方、これからどんな質問をしようかと友人と相談し合っている、と言った辺
りであろうか。

・・・しかし。
それをいち早く察知したマリアが、そろそろ授業に入りますよと再び話を切り
出した。
生徒達が一斉に抗議の声を上げる。


「皇海サンへの質問は、授業が終ってからにして頂戴ね。
 それじゃ皇海さんの席は・・・・兆度美里サンの隣が空いているみたいね。
 お隣同士だし、美里サンも皇海サンに良くしてあげてね。」


さらに、それから・・・と付け加える。

「学校について分からない事があった時も、彼女に聞くといいわ。
 美里さんはクラス委員長でありながら、この学校の生徒会長も勤めている
 から・・・何か困った時には相談なさい、きっと力になってくれるわ。」


マリアの視線の先に顔を向けると・・・美里さんとおぼしき黒髪を称えた女子
生徒の姿が映し出された。
意図なく目が合ってしまったが、美里さんはそれを不快には取らず逆に微笑み
つつ会釈をされた。


(・・・・っ!?)


その時、聖は何ともいえない感覚に捕われた。

懐かしいような、胸を締め付けられるような・・・・。


(い、今の感覚は・・・!?)


少々しどろもどろになり、思わず会釈を返しつつ先程マリアに指し示された席
・・・美里さんの隣の席へと腰を下ろした。


「それじゃ、ホームルームを始めましょう。
 今日の議題は、旧校舎の改築案について・・・」


―――――――。


―――――。



―――――3−C教室 休み時間


一時限目後の休み時間は、マリアが意図していた通り生徒達の熱烈な質問タイ
ムと化していた。
その割合は、男子と女子が半々といった所であろうか、聖の机の周囲には黒山
の人だかりが形成されいてる。


―――――さっき出身は熊本だって言ってたけど、高校はドコなの?


「・・・以前はSt.エルティア学院に通っていたの。」


―――――確かソコってスポーツが強い事で有名なエリート女子校じゃない。
     皇海さんってスッゴク勉強できるんだね〜。


―――――じゃあさ〜、あっちの高校ではなんて呼ばれてたの?


「ええと、大抵は苗字で呼ばれる事が多かったけれど・・・。
 クラスメイトからは、呼び捨てとか・・・あ、あと”ひーちゃん”と呼ばれ
 る事もあったわ。」


―――――へぇ、案外可愛いあだ名で呼ばれてたんだねぇ〜。


(実は下級生から、”お姉様”と呼ばれる事も多かったなんて・・・。)

あらぬ誤解を受けそうで怖くなってしまい、これだけは決して言う気にはなれ
ない聖であった。


―――――あたしも、しつも〜んッ!!


―――――あッ、俺にも言わせろよッ!!


質問に対して次第に熱が入り、少しずつその内容が私的な部分へと入ってくる。



―――――好きな食べ物はァ?


―――――特技は何?


―――――あっちの学校で何かスポーツとかやってた?


―――――兄弟か姉妹って誰かいる?



(それにしても、いつになったら・・・)


終るのかしらね、と聞こえない様にして溜息を漏らす聖。
女子高の時も終始生徒達に囲まれ、困惑しっ放しだった記憶を持つ彼女にとっ
て、男女共学の高校でも同じ目に遭遇しているこの現状は、なんとも憂いを抱
かずにはいられないのが正直な気持ちであった。


(早く授業、始まらないかしら・・・・。)

そんな事を考え出した彼女の前に、1人の男子生徒がずいっと身を乗り出した。


「・・・へへッ、ようやく俺の番だぜッ!」


茶色の髪に軽薄そうなニヤけた声色、そして軟派さをこれでもかと言わんばか
りに醸し出すその出で立ち。
だが何か武道をやっているのか、肩には紫色の布に包まれた棒状の物体を担い
でいる。
聖と同じだと考えるならば、剣・・・いや竹刀や木刀の類が封入されているは
ずである。


「よぉ、可愛い子ちゃん♪(かわいこちゃん、と読む←爆死)
 俺は人呼んで、魔神一のイイ男!蓬莱寺京一だ。
 これでも、剣道部の主将をやってんだぜッ。 
 運良く、同じクラスになれたんだ・・・仲良くしようぜッ!」


「蓬莱寺君ね、ええ・・・・よろしく・・・。」


聖は訝しみつつそう答えた。
その表情には、明らかにこれ以上の質問を嫌がる様子が見て取れる。


「へへへッ、あんたって本ッ当〜に美人だよな〜♪
 こんなにすっげぇ美人は美里以来かもなッ!
 魔神学園(ここ)は元々可愛い娘が多いけどよ、あんたはダントツだぜ♪
 で、質問なんだけどよ・・・・好きな男のタイプってどんな奴なんだッ?」


その軟派な雰囲気からも察する通り、予想と大差ない質問が来たため、咄嗟に
苦笑いを堪えた。


「好きな男性のタイプ・・・ね、そうね・・・。
 強いてあげるなら・・・。」 


「・・・・強いてあげるなら?」


ニヤリと頬を緩めながら、その男子生徒・・・蓬莱寺京一は期待に胸を膨らま
せながら彼女の返答を待つ。

数秒の沈黙ののち、聖が口を開いた。
その口元には、子悪魔的な笑みが見える。


「まず言葉使いの下手な人は駄目かしら・・・。
 あ・・・あと、硬派な人が好みね。
 それと・・・やはり礼節と真面目さを持った実直な人がいいわ。
 それから・・・」


「・・・・・。」


聖が口を開く度に、京一の顔がみるみる内に沈んでいく・・・。


「それから、茶髪もちょっと・・・ね。」



決定的な一打、いや一言。
完全に望みを断たれたその表情は、正に意気消沈という言葉がピッタリだ。


「うっ・・・ううっ・・・・。」


一瞬の静寂。



「だあぁぁぁぁぁぁッ、また振られたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜ッ!!」


教室内に響き渡る大絶叫。


「うおぉぉぉぉぉぉッ、太陽のバカヤロ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」



謎の言葉を残して(笑)、京一は教室を駆け足で出ていった。

ほんの冗談のつもりだったのに、まさかあそこまで真に受けるなんて・・・。
聖は自分の行った行為に対し、今更ながら後悔した。

(やっぱり、馴れない事はするものじゃないわね・・・)


確かに、今のはどう見ても真面目な聖には似つかわしくない軽率な行動だった
ように思える。
あとで謝っておこう・・・と人知れずごちた。


「あ〜あ、憐れだねぇ〜・・・。
 どうせこうなるのは分かってたんだから、やめとけばいいのに・・・。」


「うふふふ、小蒔ったら。
 そんな事を言ったら、京一君が可哀相よ。」


そんなやり取りと共に、桜井小蒔と・・・先程マリアから紹介された生徒会長
兼クラス委員長の美里葵が、聖の所へと近寄ってきた。


「転校生サン、初めまして。
 ボクは、桜井小蒔って言うんだ。
 漢字は・・・花の桜に、井戸の井。
 小さいに、種蒔きの蒔。
 弓道部の部長をやってるんだ。
 隣の席になれたのも、きっと何かの縁だと思うんだよね・・・だからさ。 
 これから一年間、仲良くしよーねッ。」


小柄な体にはちきれんばかりの元気さと明るさを秘めたその姿は、茶髪のショ
ートへアーや快活さと相俟って、先日知り合った雪乃を連想させる。
また、弓道部部長という事を聞いて、雛乃の事も思い出した。


「こんにちは。
 挨拶が遅くなってしまって御免なさい。
 私は美里葵っていいます。
 美里は美しいにふる里の里、葵は葵草の葵――――。
 小蒔の言葉を借りるようだけど、縁あって同じクラスなれたんですもの。
 これからよろしくね。」


「ええ、こちらこそ宜しくね・・・・美里さんに桜井さん。」


2人の仲の良さを思わせる雰囲気と真面目さに、聖は即座に警戒心を解き微笑
みつつ挨拶を交わす。


「でも京一じゃないけどさ、皇海サンって本当に美人だよね・・・。
 髪も顔立ちも凄く綺麗なのに、プロポーションも完璧だし。
 なんて言うか・・・完全無欠ってカンジ、葵とイイ勝負かも。」

「も、もう・・・小蒔ったら・・・。」
 

唐突に始まった小蒔のベタ褒めショー(謎)に、本人も・・・そして何故か葵
まで照れ出す始末になっている。


「でもさぁ、葵より皇海サンの方が気安いっていうか・・・話し易いっていう
 感じはするよね、雰囲気的にさ。
 葵も皇海サンくらい取っ付き易さがあれば、ボーイフレンドの1人や2人、
 簡単にできるんじゃないかなぁ〜と思うんだけど。
 あ、ちょっと耳貸して・・・。」


彼女の口は、ひたすらに滑らかだ。(爆)
聖の耳元に顔を近づけると、何やら小声で話し出した。


「葵ってさぁ・・・こう見えても、カレシいないんだよね。
 結構声は掛けられてるみたいなんだけど、全部断ってるし。 
 別段、理想が高いって訳じゃないらしいけど。
 でさ、ものは相談なんだけど・・・皇海さんの方から、異性との接し方って
 奴を是非ご教授願いたいんだけど・・・」

「・・・聞こえてるわよ、小蒔。
 もうッ・・・皇海さんに変な事を頼まないで。
 皇海さん、困ってるじゃないの・・・。」


「いやァ〜、へへへッ。」


葵に突っ込まれ、小蒔はけらけらと快活に笑う。
一方の葵は、困惑したような面持ちで吐息を漏らした。


「小蒔・・・次の授業は体育よ、そろそろ着替えないと。
 皇海さんも・・・急ぎましょう。」 


葵の言葉に反応し辺りを見回すと、教室内には殆ど生徒は残っておらず、周囲
は先程とは打って変わって静寂に包まれている。



「あッ、話に夢中になっててすっかり忘れてたよッ!
 2人とも急ごッ!」


「・・・ええ、そうしましょうか。」


三者三様のリアクションを見せつつ、小蒔達は急ぎ足で体育館へと向かってい
った。
聖も彼女らに続くべく教室を出ようとするが・・・。


(ん・・・背後から視線を感じる・・・。)


妙な違和感を感じ、少しだけ背後へ意識を向ける。
4.5人ほどの生徒がいるようだが、どのような人物かは分からない。


不快な視線に気付きつつも、聖は振り向こうとはせずに教室を後にした。



          第壱話【転校生】其ノ壱 完

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