![]() |
|||
| 3rd BREAK 『追跡者 来襲』 1 「う・・・・・」 ジンは、まだ重い瞼をゆっくりと開く。するとそこはヴァルゼリオンの居住スペース だった。ジンはそこにあるソファーベッドに横になっていたのだった。 だがジンは何故ここで寝ているのかがわからなかった。確かジンは、イスルギが送 り込んできた小隊を壊滅させた後、イスルギ本社の在る日本目がけてヴァルゼリオン を飛ばしていたはずだった。しかし、記憶があるのはそこまでだった。そこからの記 憶は途切れ、今はこうして理由もわからずソファーベッドに横になっているのだっ た。 「あ、起きたのジン?」 ジンが声のする方を見ると、カズエがタオルのような物を持って立っていた。 「カズエさん・・・・。一体何が――」 ジンは体をカズエに向けて起き上がる。しかしその時、突然ジンに急激な目眩が起 き、立ってる事もできず膝が崩れた。 「あ?」 ジンは突然の目眩に驚く。だがそれは目眩だけではなかった。ジンの目の前の景色 は、まるでメリーゴーラウンドに乗せられている時のように回転を起こしていて、ジ ンは立ち上がる事もできなかった。 「ちょっとジン!大丈夫?」 カズエは倒れそうなジンを引き起こし、再びソファーベッドに横にする。そして 持っていたタオルをジンの額に置く。タオルは水で冷やしていたらしく、今のジンに はその冷たいタオルが頭に心地よく感じられた。 「これでよしと。しばらく横になっていた方がいいみたいね」 「カズエさん・・・・」 ジンは少々頭が朦朧としながらも、カズエに話し掛ける。 「何?」 「俺、一体どうしたんだ?さっきまでヴァルゼリオンで日本目がけて飛んでたはずな んだけど」 「ええ、そうよ。でも途中で気を失って、海に落ちたのよ。それで今は太平洋の海の 底よ。まあ、ヴァルゼリオンはそれくらいの水圧じゃ何とも無いけど」 「そうか。それより俺が気を失ったらしいけど・・・・なんでだ?」 「詳しい事はわからないわ。ただ・・・・」 「ただ?ただ、なんなんだ?」 「これは仮説だけども・・・・原因はジンが使ったPSFだと思うのよ」 「PSFが?」 「ええ。多分ジンはPSFの負荷によって意識を失って倒れたのよ。多分今の状態は PSFを使った後遺症みたいな物ね」 「負荷に後遺症?どういう事だ?」 「PSFは、人間の脳が通常使っている能力の軽く十数倍の力を発揮するって言った でしょ?」 「ああ、それがどうしたんだ?」 「人間は通常、自分自身を壊さない為に身体能力にリミッターをつけてるのはわかる わね。それと同じ事が脳にも起こっていると思うの。本来PSFのような能力は人間 が生きていくだけでは必要の無い能力よ。それを無理やり使ったから、脳に強大な負 荷がかかって一時的に機能が麻痺したのよ。一般家庭にあるブレーカーと同じね」 「家電と同じ扱いかよ」 「しょうがないわね、本当にそうなんだから。それよりもこれからの予定が狂う事に なるわね」 「そうみたいだな・・・・」 ジンは、カズエの言葉を聞いて苦虫を噛み潰したような表情をする。これで日本へ のイスルギ襲撃が事実上不可能になったからだった。 イスルギ重工は、以前のDC戦争やエアロゲイター戦役以来、日本の都市復興にも 協力していたために、東京都内に皇居並の広大な敷地の保有を許可されていた。 更に警視庁や防衛庁とも話をつけて、敷地内を大量の私兵や自衛隊が警備しているの だ。それどころか自社製のAMも大量に完全稼動状態で待機していて、下手をする と、小国以上の戦力を有している。それに自衛隊の戦力を合わせると仮定したらとて も成功する確率などあるとは思えなかった。 「まさかここで、こんな躓きかたをするなんてな・・・・」 「すまないわね」 「え?」 カズエが言った突然の謝罪の言葉にジンは驚いた。 「私がヴァルゼリオンを完全に調整していればこんな事には・・・・」 「何言ってんだ?こんなのカズエさんのせいじゃないだろ?」 「でも・・・・」 「それに、まだやり方はあるさ。少々遠回りになるけどな・・・・」 「遠回りって・・・・なにが?」 「ああ、それは――」 もう一つのやり方をカズエに説明しようとしたその時、突然ジンに睡魔が襲ってき た。どうやらこれも後遺症らしく、かなり強い睡魔だった。 「悪いカズエさん・・・・。ちょっと寝るわ」 「え?」 「話の続きは・・・・・後で・・・」 そう言いながらジンは目を閉じた。その時にカズエの声が聞こえたような気もした が、意識を繋ぎ止めるまでには至らず、ジンはそのまま深い眠りについた。 2 ジンとカズエが太平洋の海底で、新たにヴァルゼリオンに生じた問題に辟易していた 頃、地球連邦軍に新たな動きが起きていた。 地球連邦軍 極東支部。そこの支部長室に二人の若い男女のパイロットが転属の届け と挨拶を出していた。 「メリエル・ファルエード少尉です。現時刻より極東支部に転属になります」 「トウマ・ミクモ(三雲 兜眞)少尉。現時刻より極東支部に転属になります」 二人のパイロットは、共に自分の名前を名乗り敬礼をした。メリエルと名乗ったパイ ロットは背が小さく、少女のような風貌で、もう1人のトウマと名乗ったパイロット はどこか頼りない感じを体から出していた。 だが彼らは見かけによらず、ATの操縦技術に特化していて、同世代のパイロットと は雲泥の差の能力を持っていた。そのような凄腕のパイロット二人が極東支部に同時 に配属されたのは、ある理由があった。 「うむ」 極東支部長ヨシオ・イシガキ(石垣 義雄)は、新任のパイロット、メリエルとト ウマを笑顔を浮かべ、話しかける。 「わざわざ北米支部からよく来てくれた、歓迎するよ」 「ありがとうございます」 「支部長直々のお言葉光栄です」 「うむ。二人ともいい返事だ。これなら、これからの特別任務にも期待が持てるな。 ああ、勿論君達は特別任務について聞かされているだろう?」 「はい。私達に与えられた任務はイスルギ重工製の特機、ヴァルゼリオンの拿捕と・ ・・」 「Sクラステロリスト、ジン・イスルギの捕縛です」 「そのとおりだ!」 イシガキは、さっき二人に見せた以上の笑顔を顔に浮かべる。 「ジン・イスルギは、自分が所属していたDCから特機を奪った憎むべきテロリスト だ。いくらDCが平和への歩みを無視し続ける愚かな組織でもそれは関係ない。テロ リストは断固として許されない事だ!」 イシガキは、興奮して唾を飛ばしながら演説し付ける。メリエルもトウマも、飛ん でくる唾をなんとか避けながら、イシガキの演説が終わるのを待ち続ける。 だがイシガキの演説は、まだ終わりそうに無かった。 「いまや、地球は平和なのだ。先のエアロゲイター戦役も、もはや既に過去のもので しかない。これからは誰もが争わない平和な地球圏を作っていくべきなのだ!私達は その為に汚らわしい武力を振るってでも世界平和の敵であるジン・イスルギを捕まえ なくてはならない!わかるな?」 「はい」 「勿論です」 「よろしい」 メリエルとトウマの歯切れよく聞こえた返事にイシガキは満足した。 「それでは君達、短いがこれで私の話は終わりだ。これから世界の平和の為に頑張っ てくれたまえ」 「はい!」 メリエルとトウマは声をそろえて返事と敬礼をして支部長室から立ち去っていっ た。だが二人は支部長室から退室してから数mもしないうちに大きなあくびと背伸び をした。 「・・・・まったく。ここの支部長は何考えてるんだか」 メリエルはさっきのイシガキの言葉への不満を隠す事無く言い放つ。 「あの脂ぎった笑顔で口を開けば、唾を飛ばしながら平和、平和って・・・・。そんなに 戦うのが嫌なら軍の仕事につかなければいいのに・・・・」 「まあまあ、メリエルちゃん、あんなオヤジの言う事は気にしない方がいいよ」 「気にしないわけにはいかないわ。あのオヤジは私達兵士の事を『汚らわしい物』と して全否定したのよ?」 「仕方ないよ・・・・。だってあのオヤジ、ガッチガチの『恒久平和派』だもの」 「そうなのよね・・・・」 メリエルは、トウマの言葉を聞いて現在の連邦の体制を思い返し、頭を抑えながら 諦めと馬鹿馬鹿しさの混じった溜息をつく。 エアロゲイター戦役以後、地球連邦は大きく二つの派閥に分かれた。今後も、エア ロゲイター以外の異星人が来ると想定し、更なる軍備の増強をして地球圏の統一を行 なう『防衛継続派』とエアロゲイターとDCを撃退した事により、以後の地球圏に争 いが起こらないと想定し、恒久に続くであろう平和の為に軍備を収縮して地球圏の平 和を謳歌しようという『恒久平和派』に分かれた。 軍事における常識に照らし合わせれば恒久平和派の言っている事は妄言と言っても 間違いない。敵は何処から襲ってくるかわからないうえ、どんな兵力を有しているか わからないのだから。 その為、連邦政府内での分裂当初の議論では、明らかに防衛継続派が優勢だった。だ が、恒久平和派に『ブラームス・ルーステッド』と言う男が現れてから事態は一変し た。 ブラームスは『情報公開』と言って全マスコミに極秘に行なわれていた議論の内容を 公開したのだ。しかも敵である防衛継続派のイメージをできるだけ落としながら ・・・・・。 軍事学の基本すら知らない大衆と、勉強する気の無いマスコミは、防衛継続派に対し て徹底した罵詈雑言を言い放ち、まるで彼らを犯罪者のように仕立て上げた。 その尻馬に乗ってブラームスは、偏向報道を助長しながら、政府内外の人物を味方に つけ、防衛継続派の議席を減らし続け、ついに前代未聞の地球規模の地球連邦政府総 選挙を行い、防衛継続派を完膚なきまでに叩きのめした。 その為、ブラームスは地球連邦政府最高責任者となり、軍備大幅縮小を行なった。そ の為に連邦軍の戦力はエアロゲイター戦役時の半分以下にまで落ちてしまっていた。 そのうえエアロゲイター戦役で活躍したノーマン・スレイ少将のような有能な軍人 は、一方的に解雇され、その代わりにブラームスに賛同していた銃も撃てないような 三流以下の軍人が台頭し始めた。 その様子を見ていたコロニー統合府のブライアン大統領は、あまりに無知な地球連邦 を見限り、『以後、地球連邦政府は相手にしない』との声明を出し、軍備の増強を始 めていた。そしてそれに呼応するかのように、つい先日壊滅したDCも復活し、地球 防衛の為に軍備の増強を図っていたのだ。 これがエアロゲイター戦役からほぼ一年少々で起きた事だと思うとメリエルもトウマ も頭が痛くなるような気がした。 確かに平和であるならそれに越した事は無いが、戦争と言う物はいつか必ず起こるも のである。それを見越して戦力を増強するのが常識であり、政治家の仕事のはずだ。 だが、当の政治家は妄想を信じ込み、大衆に根拠の無い安心を与えている。 こんな状況で異星人が侵攻してきたら地球はひとたまりも無いだろう。そして侵略を 防げなかった責任は結局兵士に降りかかってくるのだ。 メリエルは、遠くない未来に起こるであろう事を想像し、再び深い溜息をついた。そ の様子を見て、メリエルの鬱な気持ちを察したのかトウマはメリエルの肩を叩く。 「メリエルちゃんがそんなに深く考える必要ないよ。確かに今の俺達はただの兵士か もしれないけど、いつかは連邦を変えられる様になるかもしれないじゃないか。それ に初代ATXチームのキョウスケ先輩達もいる事だし、そんなに悪いことにはならな いと思うよ」 「・・・・・確かにそうよね」 「そうそう。それよりも早く持ち場に行こうよ。極東支部は礼儀とか細かい所にうる さい人多いからね」 「わかったわ。でも、それより・・・」 メリエルは体の向きを変え、トウマを睨みつける。 「あたしにちゃん付けするのやめてくれない?あたしはこれでもあなたより年上なの よ?」 「あ、ごめん。メリエル・・・さん」 「まったく・・・・今度から気を付けなさいよ」 そう言って二人は誰もいない廊下を歩いていった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― |
|||
| SEO | 花 | 無料レンタルサーバー ブログ SEO | |