| ACT−4 「咆哮の騎士」 先行偵察隊の帰還により、戦闘部隊である「サイレント・スワロー」隊に召集がかかり、一同ブリーフィングルームに集合した。但し、なぜかいつもと雰囲気がかなり異なるようではあったが。 まずリアは、終始仏懲面で、誰とも目を合わそうとしないし、タロスは口笛吹いて知らん顔。 レフィアに至ってはずっとタロスを睨みつけていた。 そこに艦長も入ってくるが、なぜか生傷だらけ。一緒に入ってきたアンジェリカも顔を真っ赤にしてずっと俯きっぱなしだった。 「それではミーティングを始める。」 あまり威厳もへったくれもないが、取り敢えずその場にいる全員が居住いを正す。 先程までの(別の意味での)緊張感がなりを潜め、作戦前特有のピリピリとした緊張感が隊員達を支配する。 「まずはこの映像を見て貰いたい。先程、偵察から戻ってきたシュワルべ隊から齎されたものだ。」 「・・・何、アレ?」 映像を見たレフィアが息を呑む。 無理もない。そこに映っていたのは、馬鹿らしい程大きい城塞の如き建造物だった。 「ここより北東に約50kほど行った渓谷にて発見された。光学観測によると大きさは約300M前後。無論、我々の物ではない。」 「じゃあ、アレもMIST、という事ですか?」 「現状ではそう判断せざるを得ない。しかも今まで確認されたどれともとれない。まさしくアンノウンだ。」 これまで確認されたMISTの種別は4種類。 いわゆる雑兵クラスの「トルーパー級」。 特殊能力を持ち、指揮官機の護衛に特化した「ソルジャー級」。 そして部隊指揮を担い、部隊全てのMISTを統括する「コマンダー級」。 通常見かけるのはこの3種類だが、例外にバハムートと同型艦である敵の超巨大戦艦『ティアマトー』は「ジェネラル級」と分類されている。今回発見されたMISTはそのどれにも当てはまらない。 それ故にアンノウンなのだ。 「取り敢えず、我々はこの未知のMISTと思しき建造物を『キングダム』と呼称する。そこで作戦の説明に入る訳なのだが・・・。」 フリッツの説明によると、この『キングダム』の中に、近隣で攫われた人たちがいる可能性が高い。 それに戦略拠点な以上、此処に大量のMISTが配備されているのは確実である。 そこで、戦闘部隊である「サイレントスワロー」隊が配備されているMISTの部隊を出来るだけ引付け、その隙に潜入工作隊を『キングダム』内部に送り込み救出する、というものだった。 (ただ単純に戦闘部隊や偵察部隊だけでなく、このようなスペシャリストを部隊として編入されているのがこの部隊、ナイトウイングスの特徴である。ただ強いだけでなく、あらゆる状況に対応してこそのエリート部隊なのだ。) 「・・・つまり、俺達がどれ位あいつらを引付けられるかが鍵、と言う訳か。」 タロスが言う。 フリッツはその通り、と言う。戦闘部隊の動き如何によってこの救出作戦の成否は掛かっている、と言っても過言ではない。リア、レフィアにも緊張が走る。 細かな打ち合わせと段取りを説明した後、解散となる。今回の戦場は渓谷のような複雑な地形の為、空戦装備を施す為、作戦開始まで30分ほどインターバルがある。 「あの・・・」 退出するフリッツに、アンジェリカが呼び止める。 「何かな?」 「あの、私もブリッジにいさせて頂けませんか?」 思いつめた表情でフリッツに懇願する。 「しかし・・・民間人である君を戦闘ブロックに入れる訳には・・・」 「お邪魔は致しません、私も・・・私も見届けたいのです!。このままじっと待ってるだけなんて私、耐えられません!・・・だから、」 フリッツにはその心情は理解出来る。何しろ唯一人の生存者なのだ。生死不明の家族の安否を気遣うのは当然だろう。 「・・・分かりました。もしかしたら最悪、つらいものを見る事になるかも知れませんぞ。それでも・・・」 「・・・はい、覚悟は・・・出来てます。」 声は震えているものの、彼女の意思は固い。 「サブシートに座って頂きます。宜しいですな?」 はい、と力強く答える。ならば、とフリッツは少女を伴ってブリッジに向かった。 「オラッ!空戦装備の準備、急がせろ!ダラダラしてる奴ぁ飯抜きだっ!」 整備班の悲鳴と怒号の入り混じる中、出撃準備が着々と進行していた。 主力兵器、ドラゴンアームズは基本となる「シュナイダーフレーム」に各種エクステンションと呼ばれるパーツを取り付けることによって構成される。それ故に状況に応じてパーツを付け替えることが出来る極めて汎用性の高い兵器である。 「タロス竜士、レフィア竜士、リア竜士、出撃準備完了しました!」 整備班長からの報告にタロスはご苦労、と言うと、 「さて、パーティの時間だな。」 と延びをする。彼らもみなリラックスして戦場に望む。まだ戦士として歳若い彼らだが、潜って来た修羅場の数は歴戦の勇士に匹敵する。それぞれがハンガーで出撃の待つ愛機のコクピットに滑り込んだ。 機体に火が入り、ハンガーアウト。カタパルトに向かう。 「こちらスワロー2、何時でもいいぜ。」 オペレータの指示誘導に従い、機体をカタパルトに固定、出撃ハッチが開かれる。 眩しい陽光が差し込み、機体を照らす。 スワロー2、タロスの機体は砲戦型の機体で機動力を重視しているのか、比較的軽装で装備しているのはドライザムカラビナーR、と呼ばれる彼の故国、ヴァイツグラード帝国を代表する実体弾火器一丁である。彼は通常単発式ライフルであるそれの改良型の、連射能力を持つ最新型のものを好んで使用していた。 「スワロー2、『ベルゲカノニア』でるぜ!。」 カタパルトに強烈なGがかかり、彼の愛機、『ベルゲカノニア』が射出される。空中で背中に装備されたウイングを展開、バーニアを吹かして高度を取る。続いてカタパルト上にレフィアの愛機が姿を現わす。 レフィアの機体は本人が魔道士な以上、それを模した物であった。 黒光りするその機体は、その禍々しい外見通り、マントを羽織った地獄より姿を現わした死神を彷彿させる。 もっとも、その力はMISTにのみ向けられるものであり、人類に仇名す者全ての死神となるべく建造されたものであるからだ。 「スワロー3、『チェルノボーグ』、レフィア・セラフィータ、でるわよ!」 漆黒の外套を纏った死神がカタパルトから射出される。 最後はリアの機体だった。 姿をあらわしたリアの機体はスマートで優美な機体だった。蒼く染め上げられた装甲は陽光を浴びて煌き、優美な腕に握られた剣は、見方によっては銃のように見えるが、紛れも無く新しい剣である。 ただ、彼の故国であるエクスタリア王国の騎士は盾の扱いに長けた者が多く、通常装備して出撃するものだが、彼は珍しく装備していなかった。 「スワロー1、『ゼファー』、リア・ハイランド、でる!」 カタパルトから蒼く美しい機体が射出される。そしてその機体は空中で機体を一回転させると、人型であるドラゴンアームズ形態から竜翔騎形態に瞬時に可変させた。 彼の『ゼファー』は可変機構を有する最新鋭機なのだ。 陽光を浴びた三機は編隊を組んで戦場に向かう。 ・・・そこで待つ惨劇を、彼らはまだ、知る由もなかった。 「見えたぜ、距離3000!」 タロスが示す先に巨大な建造物が聳え立つ。『キングダム』とは云い得て妙だな、と誰もが思った。 「お?、どうやらお客さんのようだぜ!」 城門のようなハッチが開き、敵も部隊を展開させるつもりのようだ。 「・・・妙だな。」 『ヴリトラ』のブリッジで、フリッツは呟く。 敵の反応が鈍い。通常ならば既に部隊を展開されていてもおかしくない。まるで自分達を誘っている様にも見える。 「工作隊は暫く待機、周囲の索敵を怠るな!」 この状態では伏兵の可能性もある。 念のため、シュワルベ隊も出撃させ、更に索敵範囲を広げる。 シュワルベ隊のドラゴンアームズは偵察に特化させた装備を持ち、生存性を高めるためにステルス機構や他の追従を許さない運動性を与えられている。 かくして、此処まで慎重を期したが、フリッツの心配は杞憂に終る。 しかし、伏兵は無かったもののそれ以上に最悪の事態が前線で起きていた。 「な・・・なんだありゃ!?」 「え・・・うそっ!?」 前線に展開しているサイレントスワロー隊の各機に動揺が走る。 「!、どうした!」 「今、シュワルベ隊から中継の画像、入ります!」 オペレータがコンソールを操作してシュワルべ隊から送られてきた画像を映し出す。 その画像を見たアンジェリカは、まず声にならない悲鳴を上げる。 ブリッジに戦慄が走った。 「な・・・これは!」 やおらフリッツは艦長席から立ち上がる。 彼らが目にした光景はあまりにも信じられ無いものだったからだ。『キングダム』が展開した部隊、それは今まで囚われていたと思われていた人々だった。 「ヤンおじさん!ゼナおばさま!」 その中に見知った人がいたのか、我を忘れ、レフィアが救出しようと機体を駆け出させる。 「まて!もしかしたら罠の可能性もある!」 近くにいたリアの『ゼファー』が彼女の『チェルノボーグ』を止める。 「離して!あそこに、あそこにおじさまとおばさまがっ!離して!離してよおっ!!」 殆ど半狂乱となって振りほどこうとするが、びくともしない。 「馬鹿!よく見ろ、私たちの機体のエネルギーゲインを!!」 「え・・・?あっ!?」 見ると囚われていた人々が近づくにつれ、徐々にドラゴンアームズのエネルギーが落ちて行く。 「ど、どういう事!?」 通常有り得ない事態にレフィアは混乱する。そのまま彼女の機体を引き摺るようにリアは後方に下がる。 ドラゴンアームズをはじめとする水晶兵器はバハムートの主動力炉であるクリスタルエンフォーサーと呼ばれる巨大な水晶から放たれる雷力、と呼ばれるエネルギーを、エーテルチャンバーと呼ばれるドラゴンアームズの動力炉たる水晶に受けて乗り手の感情により増幅され動く。(この為、乗り手の感情の高ぶり如何によって出力が左右されるドラゴンアームズは高出力ではあるものの制御できなくなると暴走、下手をすると大爆発すら起こす。この事によりドラゴンアームズは乗り手殺し、という異名を持つ。) その雷力が遮断されつつある、というのは通常有り得ない。 バハムートから放たれる雷力は、アルビオン大陸全土を賄うだけのエネルギー量を持つ。いわば空気の様なものなのだ。 「・・・解析の結果は?」 オペレータも茫然としていたが、正気を取り戻すとシュワルべ隊から送られてくる各種データを解析始める。 「・・・前方に展開している民間人からトルーパー級MISTの反応が出ています。今、技術班にデータを転送、詳しい解析結果はそちらから・・・。」 オペレータの声が段々震えてくる。 (クソッ、こう云う事か!MIST共めっ!) 鋼鉄の悪魔の奸知にフリッツは臍をかむ。奴らは捕らえられた人々を利用し、MISTへと改造したのだ。 しかもこちらの雷力の周波数を解析し、我々の使用している雷力を遮断する能力を付与して。 こちらの士気を下げ、救出しにきた者をも喰らう。労することなく戦力を増やす事の出来る一石二鳥、いや三鳥の悪魔の策にフリッツは慄然とする。 (こんな事なら無理にでもブリッジに入れるべきでは無かったか。) 隣で口を抑え、茫然とするアンジェリカを見ながら己の軽率な判断に悔やむ。 「前線のスワロー各機、浮き足立っています!このままでは!」 悲鳴に近い声でオペレータが艦長に叫ぶ。 「くっ!ここは撤退だ!シュワルべ隊の退路を確保しつつ、スワロー各機は後退を支援せよ!」 現状ではこれが精一杯だった。やがてシュワルべ隊各機が次々に着艦する。 「ネストよりスワロー各機へ、『ヴリトラ』に撤退せよ!」 だが、オペレータが異変に気付く。 「!?、艦長、三番ハッチ開きます!これは・・・ストロングホールド!?スワロー2、撤退命令が出ています!至急帰艦して下さい!スワロー2!」 殆ど悲鳴に近い声でタロスの『ベルゲカノニア』に呼びかける。 「代われ!ネストよりスワロー2へ、どういう事だ!これは命令違反だぞ!聞こえているのか、スワロー2!」 「・・・聞こえているよ、後で営巣なり軍法会議なり好きにしろ。」 「ストロングホールド射出!もう間に合いません!」 三番ハッチより射出されたそれ、ストロングホールドはドラゴンアームズの追加支援兵装であり、このように状況に応じて後から呼び出し、合体する事が出来る。タロスの選択したのは絶大な火力を誇るウェポンタイプの兵装だった。タロスの機体が飛び上がり、背中のフライトブースターが強制排除される。そして飛来してきたウェポンタイプのストロングホールドと合体する。 それは異様な姿だった。全体のフォルムはどっしりとした四足歩行の獣を連想させる。長大な砲身を二門備え、機体中央には大口径の主砲、両腕にはスピリットランサーと呼ばれる遠近両方に使える火器を備えたその姿は正に破壊の為の獣、といった風情だ。 合体完了したタロスは、その標準を、伝説の中にある生ける屍の如く近づいてくる民間人の姿をしたMISTの群れに合わせる。 「!ロック?!タロスだめっ!やめて!」 レフィアが止めようとするが、轟音とともに吐き出された砲弾は狙い違わず命中、相手は粉々になって粉砕される。 「い・・・いやっ、いやあああああああああああっーーーーっ!」 ブリッジにアンジェリカの悲鳴が響き渡った。 「な・・・、どう・・・して?どうして撃ったのよおおおおおっ!?」 レフィアも絶叫してタロスに食って掛かる。だがタロスはそれを無視して次弾を装填、再びターゲットをロックする。 「やめろ、タロス、撤退命令を無視するのか!?」 リアも止めようとするが、合体した『ベルゲカノニア』は通常のドラゴンアームズの二倍以上の体躯を誇る。力では止めようが無い。レフィアは自分の機体を『ベルゲカノニア』の射線上に晒す。もうさせないと、両手を広げて。 「そこをどけ!レフィア!」 「いやっ!タロスこそどうしてよ!なんで撃ったの!?あの人達を助けるんじゃなかったの!?」 涙を流し、必死に食い下がるレフィア。しかしタロスは冷静に告げる。 「助けられるものだったら、な。だがな、状況を見ろ。お前も身をもって知っただろう?奴らの能力を。」 うっ、と詰まる。彼らに近づかれるのはこちらの死を意味する。 「で、でも、あそこには、アンジェの家族だっているんだよ!?ううん、それだけじゃない、私が助けなければならない人たちだって・・・」 「・・・確かにあの人達を助ける事がもしかしたら出来るかも知れない。だがな、そんな余裕が今の俺達にあるのか?今でこそ数はそれほど多くは無い。だが捕らえられた人達全てが襲ってきてみろ、それに対処できるのか?お前は撃てるのか?」 静かでは有るが迫力のある言葉。それに対してレフィアは何の反論も出来ない。 「それに、こんな作戦を、MISTの企みを成功させちゃいけねえんだ。これが俺達に有効だ、って認識させたら最後第二、第三の惨劇が確実に起こるんだ。それでも良いのか?」 「・・・・・・・」 打ちのめされた様に両手を力なく下げるレフィア。 「おめえ、アルティングなんだろ?将来もっとつらい選択を迫られることだってある。おめえにその決断が下せるのか?目の前の惨劇を奇麗事で塗りつぶしていると、次に奴らの仲間になるのは・・・おめえだぜ?」 レフィアの機体を避けるように『ベルゲカノニア』を動かすタロス。 「だから・・・俺は撃つんだ。悪党になるのは俺一人で充分だからな・・・」 近づきつつあるMISTと化した人々に再び標準を合わせる。 轟音。 バラバラと肉片が舞い散る。その肉片を踏みつけ、ぞろぞろと向かってくるMISTと化した人々。 (・・・俺とした事が・・・) フリッツは撤退命令を出した自分の判断の迂闊さを呪った。 実際タロスの言うとおりなのだ。ただ、やはり自分に同胞を撃つ、という事に忌避感を持ったのも事実だ。 その事が事象の引き伸ばし、先送りに過ぎない事を知りながら。 撤退命令を撤回し、心を鬼にして攻撃命令を下そうとしたその時、 「・・・って・・・下さい。撃って・・・下さい・・・。」 サブシートからか細い声がフリッツの耳朶を打つ。 アンジェリカだった。 悲しみに打ち震えながらも、ハッキリとフリッツに告げた。 「いやああああああっーーーーー!」 タロスの最初の砲撃で、紅蓮の炎の中に崩れ落ちる見知った人々の変わり果てた姿に、アンジェリカの意識は闇へと落ち掛けていた。 (夢・・・そうよ、これは悪い夢。きっと、目を醒めればパパやママがいて、憎まれ口を言う意地悪だけど大好きなお兄ちゃんがいて・・・) あまりの出来事に現実逃避しかけるアンジェリカに誰かが語りかける。 (・・・リカ、アンジェリカ・・・) (えっ!まさか・・・パパ!?ママ!?) (・・・俺もいるんだけどな。) (お・・・お兄ちゃん!?皆、無事だったのね!?) 歓喜に打ち震えるアンジェリカ。しかし無常にも声は告げる。 (・・・違うんだ、アンジェ。私たちは、もう・・・) (ここでこうやって話せるのも奇跡のようなものさ、それよりアンジェ・・・) (あそこにいる私たちはもう、私たちではないんだよ、あれはもう私たちの抜け殻・・・) 次々と語りかける衝撃の事実にアンジェリカは打ちのめされる。 声は自分達の辿った末路をアンジェリカに告げた。 捕らえられ、人体実験に使われた事、その死体を利用して機械の化け物に変えられた事。 一つ一つ聞く度にアンジェリカは耳を塞ぎたい衝動に駆られるものの、出来なかった。 無間地獄のような話の後、声はアンジェリカに告げた。 (私たちを解放してくれ。あのまま利用されたままでは死んでも死にきれない・・・) (パパ・・・ママ・・・お兄ちゃん・・・) アンジェリカはそう言うのが精一杯だった。 (もう、行かなくては・・・) 声がそう言うと、光が辺りを照らす。 (さようなら・・・アンジェ、私たちは君を愛していた・・・だから・・・) (生き延びてくれ、例えどんな事があろうとも。) (あなたの幸せを祈っているわ、私の可愛いアンジェ・・・) (じゃな、良い男みつけろよ・・・) 急速に遠のく声。 (待って!私を置いてかないで!お願い!私も!) そこで光が包み込む。最後に一言、愛しているよ、と言葉を残して・・・ ふと気が付くとサブシートに座っていた。 (夢じゃ・・・無かったんだ・・・) 悲しみに打ちのめされそうになるが、アンジェリカは奮い立たせる。 (勇気、出さなきゃ) でないと自分の父や母、兄に笑われてしまう、そんな気がしたからだ。 だから、彼女は告げた。 「撃ってください」 と。 「!君は・・・」 そう言いかけるが、アンジェリカはそれを遮り、 「アレは・・・もう、私の兄や両親では有りません・・・ただの抜け殻。そこに機械を詰め込んで利用しているだけ・・・だから・・・だから・・・」 一呼吸置く。そして、 「撃ってください!皆を解放してあげて!」 涙ながらに叫ぶ。 フリッツは帽子を目深に被るとスワロー各機に通信を入れる。 「・・・ネストより各機へ、聞いたな、今の言葉。」 「・・・・・・・」 「撤退命令を撤回する。各機、攻撃開始せよ!これ以上奴らの好きにさせるな!」 「スワロー1、了解!」 「スワロー2、了解!」 「・・・・・・・」 「スワロー3、どうした、復唱は?」 「出来ないなら俺がやる。お前は帰れ。」 タロスはにべも無くレフィアに言い放つ。 「・・・ううん。私がやるわ。アンジェも此処まで覚悟決めたんだもの・・・。陣形変えて。私がトップに、左右のバックアップをお願い。」 「・・・良いんだな。」 「ええ、此処は私とっても故郷・・・だから・・・私があの人達を送るわ。それが・・・アルティングとして、私が出来る手向けだから・・・」 やや俯き加減に (皆、助けられなくてごめん!) 思い出の中にしか存在しなくなった人達に心から詫びると、スピリットガイドを取り出して精神を集中させる。 最後に頬を伝う雫を残して。 レフィアはスピリットガイドと呼ばれる宝石を取り出すと眼前にかざし、精神を集中させる。 魔道士の証として与えられるその宝石は、異界への扉としての役目を果たす。 スピリットガイドを通じて異世界へと意識の腕を伸ばし、力の流れを掴み圧縮する。 その力にイメージを与え、その力をこの世界で解放する。 与えられたイメージによって、全てを焼き尽くす火球や不可視の水の盾等をこの世界に具現化させる。 それが魔導の極意である。そしてドラゴンアームズは、術者を護る鎧であると同時にその力を増幅させる魔導器でもあるのだ。 レフィアはギリギリまで力を取り出し、圧縮させる。 (まだよ!まだ!) 背中に冷や汗が伝う。今、彼女を支えているのはこの地で死を強いられた人々の無念を晴らす事。 ただそれだけだった。 (この程度じゃ、皆を送れない!) 彼女は起動限界ギリギリまでMISTを引付ける。そのバックアップにリアが付く。彼の機体は接近戦仕様なのでこの場合は出番は無い。それ故にいざと言う時、彼女を引っつかんで逃げるのが彼の役目だった。 徐々に下がって行くエネルギーに恐怖を抱きながら、リアはレフィアを最後まで信じる事に決めていた。 (それが・・・私の今の出来る事だ。) 前線に立てない歯がゆさが彼を支配する。 やがてギリギリのラインに近づく。 (・・・今よ!) 閉じていた目を見開き、力を解放する ―――――轟。 彼女の与えたイメージは雷。 彼女の最も得意とする術だが、今回は今まで放たれた術の比ではない。 今までの術は落雷程度でこれほど広範囲の敵を掃射する事はなかった。が、今回放たれたのはそんな生易しいものではない。 放たれた力は雷の嵐となり圧倒的な力の奔流となって、かつて人であったモノに襲い掛かった。 「うああああああああああああアッ―――――――――!!」 レフィアの叫びと共に、次々と前方に広がる懐かしい人々を灰塵に帰す。 (・・・これで、良いんだよね・・・) それだけ言うと、緊張の糸が切れたのかそのままレフィアは昏倒する。 機体も限界に達したのか、各部のハッチを強制解放して強制冷却を開始、ピクリとも動かなくなる。 そこに、かつて人間であったものの背後に控えていた攻撃型MISTが動かなくなったレフィアの機体に襲い掛かるが、蒼い閃光が煌き、次々と叩き落して行く。バックアップのリアの『ゼファー』だ。 「レフィアには指一本ふれさせん!!」 剣閃が煌くごとに確実にMISTは葬られていく。そこに、 「主砲、正射!目標前方のMIST群!!」 『ヴリトラ』の下部に設置された主砲をフリッツの号令で発射される。 プラズマを帯びた青い閃光がリアに群がるMISTの群れを蒸発させる。 もう、『キングダム』を護るMISTは無い。 『キングダム』は増援を出そうと城門のようなハッチを開く。だが、そこに、 「待ってたぜ!その時を!」 タロスはこの瞬間を待っていた。如何に火力に秀でていても、あの巨体だ。正面からぶち当たっても有効打は与えられない。だからじっとハッチが開くを待っていたのだ。 「セイフティ解除、フルバーストモードに以降。」 機体の拘束とも言うべきセイフティを次々解除してゆく。 「見てろよ、今までの分三倍返しにして返してやるぜ!」 全てのセイフティを解除された破壊の獣は、開かれた門に向かいもてる火力の全てを叩き込む。 「『ベルゲカノニア』フルバーストモード、ファイア!!」 怒りの咆哮、放たれた圧倒的な火力が一点に扉の中に集中、内部で誘爆が起きたのか、爆発エネルギーが『キングダム』のなかで暴れ狂う。行き場の無くなった爆発が『キングダム』の装甲を吹き飛ばし、大爆発する。 「やったか!」 フリッツが叫ぶ。 「いえ・・・、敵『キングダム』健在です!」 爆発の中、苦悶に打ち震えるように身をよじらせる『キングダム』。表面装甲の殆ど失い、動力炉すら剥き出しになっても今だその機能は失ってはいない。爆炎が晴れ、よく見ると剥き出しと思われた動力炉に何か薄っすらと膜のような物が浮かんでいる。 「!シールドか!」 主動力炉であるコアを護る為の緊急処置であろう。更にオペレータから報告、 「敵、『キングダム』自己修復開始!、このままでは・・・」 今までの努力が全て水泡に帰してしまう。 「主砲、最チャージにはどの位だ。」 「・・・あと30秒ほど掛かります。」 「くっ!間に合わん。」 レフィアはその力が回復するのにまだ時間を要する。タロスの『ベルゲカノニア』も機体に対する負荷から今だ動けなかった。 (万事窮す、か!) 「いや、まだだ!まだ終らん!」 リアは機体を駆け出させ、ジャンプ。空中で瞬時に機体を可変させ、放たれた矢の如く『キングダム』に向かう。 「リア!後はお前に託した!」 タロスが叫ぶ。それに答えるようにリアの『ゼファー』も益々加速して行く。 リアは激しい怒りに燃えていた。 (奴ら・・・ネジ一本たりともこの世に残してたまるか!) 人を機械に変える悪魔の工場を眼前にしながら怒りを闘志に変える。その怒りに「エーテルチャンバー」が答え、力を更に増幅させる。増幅された力は機体内部から炎の様に噴出し、まるで機体が炎を纏った様に見える。その姿はさながら神話の中の不死鳥のようだ。 炎の不死鳥と化した『ゼファー』は、そのまま一直線に敵のシールドに突っ込んだ。 「いけええええええええっ!!」 裂帛の気合。しかし、甲高い音と共にその勢いはシールドに止められてしまう。 力と力のぶつかり合い。スパークが巻き起こり、『ゼファー』の計器類が一斉に吹き飛ぶ。だがリアは怯まない。 (この程度でええっ!) 更に気合を込める。その姿を『ヴリトラ』のスクリーンから見守っていたアンジェリカは必死にリアの為に祈った。 (お願い!パパ、ママ、お兄ちゃん、あの人に、リア様に力を貸して!!) その祈りが力になったのか、『ゼファー』の機体に纏う炎の色が真紅から蒼白く変わる。 「『ゼファー』更に出力上昇!これなら!」 『ゼファー』をモニタリングしていたオペレータが、歓喜の叫びを上げる。 「これでえええええええええっ!」 少しずつ、少しずつシールド内にめり込んで行く『ゼファー』。 パキイイイイイイイイイン! 負荷の限界に達したシールドが『ゼファー』の勢いに耐え切れず、崩壊する。キラキラと硝子の破片の如く、シールドの破片が散らばる。もう、『ゼファー』を遮るものは何もない。無防備なコアに向かい、蒼き炎を纏った不死鳥が貫きとおす。 ―――貫けええっ!! 己の全てを、無念の死を強いられた人々の、護りたかった少女の思いを乗せ、不死鳥は『キングダム』に止めを刺す。そのまま反対側まで貫いた後、『ゼファー』可変を解き、ドラゴンアームズ形態で片膝をつく。 見れば過負荷に痛めつけられた機体は、蒼い装甲の一部も溶解し、新品だった剣もヒビだらけになっていた。そのコクピットの中で、荒い息を吐くリアは、確かな手ごたえを感じていた。 「任務・・・完了。」 『ヴリトラ』のブリッジは勝利に沸いていた。 「敵、完全に沈黙!我々の勝利です!。」 歓喜に沸くブリッジ。フリッツは、帽子を目深に被り、 「状況終了、工作隊は安全を確保したら敵の残骸の調査を行ってくれ、以上だ。」 それだけを言うと艦長席に深く身を沈め、大きく息を吐く。 ふと気がついてサブシートを見ると確かにそこにいた筈の少女の姿が消えていた。 |
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