2nd BREAK


『反逆(はんぎゃく)の狼煙(のろし)』





「ジン、とりあえずあの島に着陸して」


 カズエは、ジンに眼下にある島を指定した。カズエによれば、ここまで近くだと灯台下暗しになって見つからない物だという。


とりあえずジンはカズエの指示に従って、アイドネウス島から通常飛行で一時間ほどの島にヴァルゼリオンを近づける。そして島の中央部分に着陸した。


ジンは着陸した後、身を隠すため体を低くする。それとほぼ同時にカズエが呼びかけてきた。


「無事に着陸できたわね。どうやら追って来る機体も無いみたいだし、もう感覚を元に戻しても大丈夫よ」


「戻すのはどうやるんだ?」


「簡単よ。それも『戻る』っていう思念を送るだけでいいの」


「やたら簡単だな。そんなんだったら戦闘中に間違って意識が戻る事無いのか?」


「大丈夫よ。戦闘中は、ヴァルゼリオンの中の補助コンピューターがパイロットのアドレナリンの量が一定以下にならないと意識が肉体に戻らないようになっているから」


「そうか。じゃあ、とりあえず戻ってみるか」


 ジンは心を落ち着けて意識を戻す事を念じる。すると、念じてから数秒経ったか経たないかのうちに、体中に何かを覆う感覚が蘇ってきた。


(ここは・・・コクピットか?)


 蘇った感覚にジンは、少し途惑う。ヴァルゼリオンに意識を移している間は、触覚という感覚が無くなっていたからである。


 ジンが途惑っている間に、自分を覆っていた物が外れ、自由に動けるようになっていた。「カズエさん。戻ったはいいけど、ここからどうすりゃいいんだ?」


「じゃあ、シートに座ったまま左のスイッチを押して。そうすればこっちに来れるから」


「わかった」


 ジンはカズエに言われたとおり、シートの左の肘かけにあるボタンを押した。すると、シートがエレベーターのように下降を始めた。


 シートは数秒もしないうちに下降を止めた。そこは狭い部屋で目の前にはドアがあった


ジンは、そのドアを開けて驚いた。そこにあったのは意外な広さを持つ待機スペースだった。


そのスペースは軍関係の設備のような無機質さは感じられず、まるでどこかのアパートのような感じだった。そしてその予想外の空間で、カズエはジンのいる方向に背を向け、コンピューターのディスプレイに向かっていた。


「あ、ジン。お疲れ様。とりあえずこの場所ならしばらくはゆっくりできるみたいよ」


 ジンがここに来たのに気がついたカズエはジンの方へ体を向けた。


「疲れたでしょう?そこの冷蔵庫に飲み物が入っているわよ」


 カズエが指さした場所には、確かに冷蔵庫があった。いや、冷蔵庫だけではない。よく見れば、この部屋にはテレビもあり、ロフト式ベッドもある。更にはバスとトイレも別々に設置されていた。


 ジンは冷蔵庫の中に何故かあったコーラを飲みながらカズエに疑問をぶつける。


「何だよ、ここ・・・・。本当に特機の中なのか?」


「ええ、そうよ。私がヴァルゼリオンを設計した時、必ず組み込むように言っていたサブパイロットの待機スペースよ。快適でしょ?」


「ああ。でも、特機みたいな人型マシンにこういうのをつけるなんて・・・・・・」


「そういうのを偏見って言うのよ。よく男の人は特機自体を自分のシンボルとか、なにか凄い物みたいに言うけど、結局は特機も兵器に変わりは無いわ。だから私は戦艦みたいな旧型兵器の利点を組み込んでみたのよ。まあ、その分大型化したんだけどね」


「なるほど。それなら納得がいくな。これぐらい大きい兵器だったら、こういうのを作ってもスペースに余裕があるだろうし」


「そう。基本的に特機って言う物は、殆どが小型化できるのに、必要以上に大型に作っているものがほとんどなのよ。まあ『大きければ大きい程いい』ってのは、心理学者のフロイトの説によれば男性の深層心理を表しているらしいんだけどね。でもフロイトは何でも性欲に結び付けるのよ。弟子だったユングも、フロイトのそういう所を批判していたわね。まあ、そのぶんユングの心理学は結構難解になったし。まあ、私はどっちもどっちだと思うけど・・・・・」


 カズエは、自分がずっと喋っているのを感じ取り、一度咳払いをした後、話を軌道修正しようとした。


 カズエは、説明をし始めると止まらなくなる癖があった。その癖はジンが最初のDCに入隊して、ナオトとカズエに最初に会った時以来、いくら治す様に言っても治らなかった。  


ジンは、こういう状況でも癖という物は、やはり変わらない物なのだと思い苦笑する。


「話を戻すわよ。要は、今まで特機は大型化していった割にはAMやPTとコンセプトがさほど変わらなかったのよ。確かにそれも進化と言える物なんだけど、それじゃあ、あまりにも芸が無いでしょ?だから私はパイロットを消耗品と考えて、ヴァルゼリオンや開発する予定だった他のドミネーターにここみたいなスペースを作る事を提案したのよ」


「その割には・・・・・」


「え?」


「その割には、ヴァルゼリオンの使っているシステム・・・・ドミニオン・システムは、あまりにも汎用性が無いんじゃないか?」


 ジンの言葉にカズエは沈黙した。さっきまで饒舌だったのが嘘のように感じられた。だがジンは躊躇う事無く言葉を続ける。


「どう考えてもヴァルゼリオンのドミニオン・システムと操縦システムは、噛み合っていない。もし戦闘に突入しても、機体の動きを制御しきれずに自滅するか、制御に気をとられて動けず、敵に狙い撃ちされるかのどっちかしかない」


「ええ、ジンの言うとおりよ・・・・・。今のヴァルゼリオンは普通の人間じゃ扱える物じゃない・・・・」


 カズエは、辛そうに喋る。しかし、酷かもしれないがヴァルゼリオンを操縦するジンにとって、機体の制御は死活問題なのだ。


 もし、戦闘に陥った時、ヴァルゼリオンを思うように扱えなければ、ジンもカズエも死ぬしかない。少しでも死ぬ確率を減らす為には、徹底的にヴァルゼリオンの事を知る必要があるのだ。


 だからジンはカズエにとって、きつい事を言っているのを理解しながらも言葉を続けるしかないのだ。


「だったら、なんであんなシステムにしたんだ?もっと扱いやすいシステムにすればよかったんじゃないのか?」


「確かにその通りね。でも、私達は・・・・ビアン総帥は、汎用性を追及している余裕は無かったの」


「え?」


 突然出てきたDCの創始者、ビアン・ゾルダークの名前にジンは驚いた。そして、それを見て意を決したかのように、カズエはジンに対しある話を始めた。





「ジンは、『プロジェクトDD』について殆ど知らないんでしょう?」


「ああ、知ってる事といえば、AMレベルの大きさの機体による恒星間航行を行う『プロジェクト・TD』の次の段階の計画だってことぐらいだ」


「その通りよ。じゃあ、もう一度聞くけど『プロジェクト・TD』が成功したらどうなると思う?」


「恒星間航行が簡単にできるようになって―――」


「恒星間航行ができるようになる利点は?」


 カズエの言葉にジンは考え込む。例え単機での恒星間航行ができるようになったところで、地球と友好関係になっている星など無い。それなのに単機での恒星間航行によるメリットなどほとんど無いと言っても差し支えは無いはずだ。


 そんなジンの考えを読んだのか、カズエは一言呟いた。


「もし、エアロゲイターの母星や本陣が判明したとしたら?」


「あ!!」


 カズエの言葉でようやくジンは理解した。『プロジェクト・TD』に隠された真相と『プロジェクトDD』の真実を。


「そう。単機での敵本陣への侵攻による一点破壊。それが『プロジェクトDD(支配者の降臨)』なのよ。ビアン総帥は、もし人類が敗北寸前までに陥った時に、地球そのものを囮にして発動する予定だったのよ」


「地球そのものを囮に・・・・」


 ジンは『プロジェクトDD』の真実を聞いて、驚きのあまり思わず唾を飲み込む。だが、それと同時にあのビアン総帥らしい作戦だとも思った。


 ビアンはエアロゲイターの可能性が示唆された時から、エアロゲイターとの徹底抗戦を訴え、『人類に逃げ場無し』とまで言った男だ。そんな男だからこそ、こんな一か八かの計画を考え、実行できるほどにまで計画を持っていけたのだ。


 その思想に対しては反対も多いだろうが、ジンはビアンという男そのものを改めて見直していた。


「だけど、一つだけ問題があったの。侵攻の際、生半可な能力の機体や、強力でも弾薬やエネルギーを消費する武器を持っている機体では、例え辿り付いた所でエアロゲイターの殲滅は不可能という問題がね」


「確かに単機で侵攻する以上、補給は皆無だしな」


「そう。だから私達は、必死に作り出したのよ。最小限の消耗で最大限の侵攻ができる機体・・・・それが支配者と名づけられたシステムを体内に入れた格闘および白兵戦用機体・ドミネーターなのよ」


「え?ちょっと言っている事がおかしくないか?ヴァルゼリオンの武装は弾数制だし、威力もそれほどじゃないじゃなかったのか?」


「あの武器はね」


「あの武器は?」


「ジンはヴァルゼリオンを見て、なにかちぐはぐな感じがしなかった?」


「ああ、した。どうも腕と肩の武器が機体のフォルムに合っていなかったな」


「それは当然よ。あの武装は、とりあえずつけただけだもの」


「何でそんな事を?」


「ヴァルゼリオンの本当の力を出せる人間が見つからないのよ」


「本当の力?」


「ええ。さっきも言ったとおりヴァルゼリオンのようなドミネーターと呼ばれる機体は、ドミニオン・システムを積んでいるわ。計画当初はそれを利用した高速の接近戦で、いかなる軍勢でも相手できると思われていたわ・・・・・」


 そう言ってカズエは視線を落とした。


「でも現実は、違っていた・・・・。私達は一番重大な事を忘れていたのよ」


「一番重大な事?」


「そう。結局操縦するのは人間だって事をね・・・・」


「・・・・・・」


「ドミニオン・システムは、あまりにも強力なシステムの為、思念じゃ制御しきれない・・・。けれど格闘戦を行うのに、レバーやスイッチはあまりにも向いていない、という矛盾に陥ったのよ。結局、それは解決できず、中途半端な武器をつけるだけで終わってしまったの」


「そうか・・・・・」


「結局、『プロジェクトDD』は、発動する事も無かったけど、いつまたエアロゲイターが来るのかはわからない・・・・。だからビアン総帥の死後も研究を続けてたんだけど・・・・・結局は無駄になったわ・・・・・・」


 ジンは何も言えなかった。確かにカズエの理想どおりの性能を発揮できたら、ヴァルゼリオンは、無敵になるだろう。大気圏脱出速度をほぼ瞬時に出し、相手が気づく間も無く接近戦で敵機を破壊できる機体に敵う物など現時点では皆無だからだ。そして同じように、そんな機体を制御できる人間も皆無だった。


 だが・・・・


「なあ、カズエさん。ヴァルゼリオンを制御できるようになるには、どうすればいい?」


「え?」


「俺は、カズエさんの話を聞いてて、ヴァルゼリオンを自在に操れるようになりたくなった。こんな機体にめぐり合うなんて二度とないだろうからな」


「今は冗談を聞いても笑える気分じゃないわ」


「冗談を言っているつもりは無いけどな」


「・・・・・・・本気なの?」


「ああ、本気だ」


 ジンは、決意を込めた目でカズエを見据える。だがカズエは、ジンから視線を外し、呟いた。


「無理よ・・・・。いくらジンが格闘戦が強いからと言って、ヴァルゼリオンを操れるようにはならないわ」


「言ってくれるな。まあ、あんな動きしかできなかったんじゃ当たり前か」


「そうじゃないの。ヴァルゼリオンを完全に操るには、特殊な能力が必要なのよ『PSF』と言う物が・・・」


「PSF?」


「ええ。正式名称は『Pluralistic intelligence Simultaneously disposal Faculty』。PSFは、言いやすいように頭文字をとったものよ。日本語に訳すなら『多源情報 同時処理 能力』になるわ」


「もっともらしい名前だってのはわかった。で、それは一体どんな能力なんだ?」


「名前の通りよ。根源の異なる情報全てを同時に、そして正確に脳内で処理できる能力の事なの。わかりやすく説明するならパソコンで、同時にいくつかのプログラムを開きながら処理速度を全く落とす事無く動かす事ができると言う事に等しいわ」


「なるほどな・・・・」


「ジンは一度動かしたからもうわかっているでしょ?ヴァルゼリオンは意識だけで機体を動かしながらも、同時にドミニオン・システムの制御まで行わなければならないの。


しかもそれをコンマ一秒以下で生死が決まる戦場で行わなければならないのよ。そんな事ができる!?できるはずが無いわ!歴史に出てきた聖徳太子じゃあるまいし・・・・」


「できるさ」


「え?」


「できない事は無い。要は慣れる事だ」


「貴方、ちゃんと話を聞いてたの?ヴァルゼリオンの操縦システムは人間には――」


「聖徳太子は人間だぜ?しかも実在の人間だ」


「でも――」


「これを見てくれよ」


 ジンは、カズエが喋るのを遮り、ポケットに入れていたバッジを見せた。


「何よ、これ」


「直人さんを殺した奴がつけていたバッジだよ」


 ジンの言葉にカズエはバッジに目を落とす。するとカズエの顔色が瞬く間に青くなって言った。そこにははっきりと日本語で『イスルギ』と書かれていた。


「ここに書いてあるイスルギ・・・・って」


「そう。世界?2の機動兵器開発会社『イスルギ重工』。俺の実家だ」


「なんでイスルギが・・・」


「どんな理由があるかはわからない。けれど奴らがやっている事が・・・ナオトを殺した奴らが正しいはずが無い!!」


 ジンは呆然としたままのカズエに力強く語りかける。その時ジンの手は血が滲まんばかりに力強く手を握り締めた。


「カズエさん・・・。今の俺達は、イスルギに追われる身で、あまりに非力だ。普通に戦った所で、絶対に勝ち目は無い。この状況を覆す事ができるのはあんたが作ったこのヴァルゼリオンしかない!他のAMやPTじゃ駄目なんだ!!」


「ジン・・・・・あなた本気で――」


 その時、カズエの言葉を遮るかのように警報音が鳴った。その警報音に反応して、カズエはさっきまで向かっていたコンピューターを操作し始めた。


「まさか・・・・そんな・・・・」


 ディスプレイに向かっていたカズエは、画面を見て肩を落とした。


「どうしたんだカズエさん?」


「囲まれたわ・・・・」


「囲まれた?」


「そう。リオンが十五体とガーリオンが一体の小隊・・・・・。予想より多い機体数だわ」


「だけど、それぐらいなら―――」


「無理よ・・・・。今ヴァルゼリオンに積まれている弾薬は、全部合わせても半分も撃墜できない量しかないわ」


「マジかよ・・・・」


「ここは、前の時みたいに一気にスピードを出して逃げ切った方がよさそうね」


「いや・・・戦う」


「戦うって・・・・。言ったでしょ!?弾薬は、襲って来た部隊を半分も撃墜できないって!!」


「弾薬だけには頼らないさ」


「もしかして・・・・冗談でしょ!?」


「冗談じゃない・・・・。奴等を格闘戦で落としてやる!!」
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