「ジン、用意はいい?」
「ああ、いいぜ。最高のコンディション
だ」
 ジンは、調子の良さをアピールするようにヴァルゼリオンを動かす。ジンもカズエ
も、日本最南端地区にある名もない島で、24時間以上の休息を取った為、心身とも
に快調だった。
「そう。じゃあ・・・・・・いいのね?目的地をイスルギ本社にしても・・・・・・」
「まだ言ってんのか?もう決めたんだよ。いいかげんにしてくれよ」
「わかったわ。それじゃあ・・・・・・」
カズエは、ジンの答えを半ば予想していたのか、すぐさまイスルギ本社までのナビを
ジンに送ってきた。
「よし。これでイスルギまで直行だな。後は・・・・」
「ちょっとジン!」
「なんだよ?まだなんかあるのか?」
「そうじゃないわ!この島に―――」
カズエが、何かをジンに伝えようとした時、島の周囲から轟音が響き始めた。
「な・・・なんだ?」
「敵よ!イスルギの戦闘部隊だわ!!」
「ちっ!こんな時にかよ!!」
ジンの舌打ちと共に、島の周囲から水柱が上がり、そこから特機らしきものが飛び出
し、すぐさまヴァルゼリオンを包囲し、逃げ道を完全に塞いだ。
 ヴァルゼリオンを包囲している特機は十体。しかも量産型らしく、機体の形が完全
に同じだった。それを見たジンは、顔に薄笑いを浮かべる。
「どうやら、イスルギには学習能力ってのが無いらしいな。量産型でヴァルゼリオン
を止められると思ってんだからな・・・・・・」
ジンが、真正面にいる機体をにらんで近づく。しかし、その時突然カズエが叫んだ。
「こ、これは!?」
「何だよカズエさん!いまさら、敵機が出たぐらいで驚く事があるのか!?」
「だ・・・・だって・・・・」
「何がだってだよ?」
「だって・・・・・敵機から出る反応とフォルムがヴァルゼリオンと80%一致している
のよ!?」
「なんだって!?」
ジンは、カズエの言葉に驚きの声を上げる。周知の通りヴァルゼリオンは、エアロゲ
イターを壊滅させる為にカズエがビアンと共に極秘裏に作り上げたワンオフの機体
で、同型の機体どころか技術の一部を流用した物さえ存在せず、80%のような高確
率で同じ反応とフォルムを持つ機体など、存在しているはずが無い。
しかしジンとカズエの目の前には、現実としてヴァルゼリオンの同系機と思わしい特
機が並んでいる・・・・・・それは二人にとって、薄気味悪い光景だった。その時―――
「おい、どうした?そんなに今の登場シーンに驚いたか?」
 突然、全く緊張感の感じられない声が通信として入ってきた。いきなりの事に反応
できずにいると、声の主は話を続けてくる。
「おい、後ろだよ。真後ろ」
 その声にしたがって後ろを振り向くと、そこには一段と目立った機体があった。そ
の機体もヴァルゼリオンに酷似していたが、驚くべき事にロボットのくせにコートを
身にまとっているのだった。
 ジンもカズエも、予想外の事にあっけを取られて黙ったままでいると、再び通信が
入ってきた。
「聞こえてんだろ?ヴァルゼリオンのパイロット。早く返事してくれよ、俺が一人だ
けで喋ってて、まるで馬鹿に見えるじゃねえか」
「・・・・・・・なんだ?お前」
「ああ、聞こえてたのか。よかった。」
「いや、答えろよ」
「おっとそうだった、忘れてたぜ。悪りい悪りい」
「だから、早く答えろよ」
「わかってるって。ゴホン・・・・・」
何のつもりか、通信の相手はもったいぶって咳払いまで始めた。ジンは、もうこれ以
上突っ込みを入れるのを止めて相手の言葉を黙って聞くことにした。
「最初に名乗っとくぜ。俺の名前はジョウスケ・キザキ、機体の名前はヴァルレオ
ン。アンタが今乗っているヴァルゼリオンをとっ捕まえるために創設された部隊の隊
長だ。あ、ちなみに周りにいるのは量産機のヴァルスティオン。まあ、どっちもよろ
しくな」
「何がよろしくだ。大体そんな事ベラベラと言っていいのか?」
「いいんだよ。別に隠しておいたってしょうがねえんだからな」
「そうか・・・・・。じゃあそろそろ殴っていいか?」
 ジョウスケと名乗った男の適当な返答に怒りすら覚えて、ジンは拳を握り締めて構
えを取るが・・・・
「ちょ、ちょっと待った!俺はまだアンタと戦う気は無いんだよ!!」
「・・・・・はぁ?」
 ジョウスケの返答に驚いたジンの口から気の抜けた声が漏れる。もはや、ジンもカ
ズエもジョウスケという男が何をしたいのかが全くわからなくなっていた。もっとも
ジョウスケの方はそんなジンとカズエの困惑など気づきもせずに話を続けた。
「確かに、俺はアンタを捕まえなきゃいけない。でも今はそれより先に済ませとかな
きゃいけない用事があるんだ」
「用事だぁ?・・・・・・まあいい、さっさと言えよ」
「おっ、サンキュー。ちょっと待ってな」
 そう言ったと同時にジョウスケは通信を切り、隣にいるヴァルスティオンと何かを
話し始めた。すると・・・・
「ちょっとジン・・・・・いいの?あんな事言って・・・・・」
 ジンの気安い返事を不安に思ったのか、さっきから黙っていたカズエが話し掛けて
きた。
「大丈夫だ。それに何かあっても、返り討ちにしてやるだけだ。まあ偽物なんかにや
られるはずが無いからな」
「そう言われたら、開発者としては何も言い返せないわね・・・・・。わかったわ、
ジンに任せる事にするわよ」
「まかせておけって」
 ジンは、何の気負いもなくカズエに対して明朗に言葉を返した。すると、ジョウス
ケの方も何かが終わったのか、再び通信を入れてきた。
「わりぃわりぃ、待ったか?」
「いや。で、用事ってのはなんなんだ?」
「ああ、そいつはこいつから直接聞いてくれ」
 そう言って、ジョウスケは隣にいたヴァルスティオンの背中を軽く叩いてジンの前
に押し出した。
「いいから早くしろ。俺は急いで―――」
「兄さん・・・・・」
「!!」
 通信に入ってきた声を聞いた瞬間、ジンの言葉が止まる。その声は、本当ならこの
状況で聞くはずの無い人物の声だったからだ。
「お前・・・・・・マユか?」
「うん・・・・・」
 二人の間には、それ以上の言葉は無く、ただ沈黙が流れていた・・・・・。



思いもよらないところで、妹のマユと再会したジン。ジンは、マユがここにいる理由
は、大体見当がつくのだが、頭ではそれをすぐに納得する事ができずにいた。
ジンは、今ヴァルゼリオンに搭乗しているにもかかわらず、無意識に頭を掻いて、溜
息をつき、その後マユに視線を戻す。
「何しに来たんだマユ。ここはお前が来るところじゃない」
「兄さんと話がしたかったの・・・・・・」
「話?」
「うん・・・・・。こうするしか兄さんと話をするチャンスが無かったから・・・・・」
そう呟くと、マユはヴァルスティオンをヴァルゼリオンに近寄らせ、その肩を掴んで
叫んだ。
「兄さんお願い!これ以上父さんと争うのはやめて!!このままだと兄さんは、単な
る犯罪者扱いされるだけなのよ!!」
 マユの言葉を聞いたジンはその言葉を鼻で笑う
「何言ってるんだ?俺はもうテロリスト扱いされてるんだぞ?」
「確かにそうだけど・・・・・・でも、今ならまだ・・・・・・」
「無理だな・・・・・・」
「え?」
「俺は、この戦いが始まってから、既に数えるのも面倒くさいほどに兵士を殺してい
る。今止めた所で、極刑をくらうのはほぼ確定だ」
「そんな・・・・・・」
ジンの言葉があまりに衝撃だったのか、肩を掴んでいた手の力が抜けた。ジンはその
手を振り払いながら話を続ける。
「それにな、親父の奴は、俺の大切な仲間達を殺しているんだよ・・・・・・。そんな奴を
許せるか?」
「で、でも・・・・・父さんは・・・・・」
「家族だって言いたいのか?冗談じゃない・・・・・奴のやっている事は肉親だからと言
う事を越えている」
「・・・・・・・」
「わかっただろ?俺は親父を殺す。イスルギを滅ぼす。ただそれだけが俺の進む道
だ」
「だからって・・・・そんな・・・・」
「仕方ない事だ。だからお前も・・・・・・・邪魔だ」
 その瞬間、ジンの左手が高速で動き、マユの乗るヴァルスティオンの頭部を裏拳で
吹き飛ばした。
「!?」
その場にいたジン以外全ての者が、驚き戸惑っている間にジンは、ヴァルスティオン
の両足をローキックで両断・破壊する。頭部を失い、両足を壊されたヴァルスティオ
ンはもはや立つ事すら出来ずに地面に倒れこむ。
だがジンの凶行はそれだけでは終わらない。ジンは、もはや動けなくなったヴァルス
ティオンめがけ、蹴りを高速で叩き込む。
「や・・・・やめてぇ!!」
ジンの予想外の行動に驚愕し、茫然自失となっていたマユは、ようやく我に帰って叫
んだ。だが、ジンはマユの悲痛な叫びを聞いてもその足を止める事は無い。
「兄さん、なんで!?何でこんな事を!!」
「何でだって?お前もイスルギだろ?」
「え・・・・・・」
「別にお前を殺す気は無かったけど、そっちから出てきたんなら仕方がねえ。恨むん
なら恨んでいい。せめて苦しまないように即死にしてやる」
 そう言いながら、ジンは左腕でヴァルスティオンを掴み、右拳を振り上げる。そし
てその拳の振るわれる先は、ヴァルスティオンのコクピット・・・・・・。
「ジン!貴方、何を!!」
「カズエさんは、気にしないでくれ。これは俺個人の事だからな」
「だからって!!」
「説教は後で聞く」
ジンは、カズエとの通信を強制的に遮断する。そして何の逡巡も無く、コクピットめ
がけて拳を放った。
しかし・・・・・・・
「待てよ」
コクピットに触れる寸前、いつのまにかヴァルゼリオンの腕は、ヴァルレオンによっ
て背後から掴まれ、その凶行を止められていた。
「うわ。さすがに力あるなあ・・・・。こっちは両腕使わなきゃいけないなんてな
・・・・・・。そんな事より大概にしとけよ。妹を殺すなんて、いくらなんでもやばすぎる
だろ」
「お前には関係ない。離せ」
「関係はあるさ。だって、マユは俺の部隊の隊員だからな。それにこういうのほうっ
とけなくて・・・・・ね」
 ジョウスケの言葉が途切れた瞬間、不意にヴァルゼリオンの眉間に何かが当たる。
「!?」
「まあ、俺だってこんな真似したくないけどさ。マユを解放してくれないと・・・・・撃
つぜ」
 ヴァルゼリオンに押し当てられているのは、大型の拳銃だった。いつのまにかヴァ
ルレオンは右手に銃を持っていた。その銃は、ヴァルゼリオンの頭部に密着し、いつ
撃たれてもおかしくなかった。
「銃(ハジキ)かよ・・・・・。そんな物でヴァルゼリオンを壊せるつもりか?」
「勿論。試してみるか?」
ジンとジョウスケの間に緊張が走る。長いような短いような、奇妙な時間が二人を包
む。そして・・・・・・
「わかったよ・・・・・」
ジンは、結局マユを殺すことを断念し、拳を引き、ヴァルスティオンを投げ渡した。
ジョウスケもヴァルスティオンを受け取った後、銃を引いた。
「へえ、予想外だな。てっきり不意討ちでもしてくるんじゃねえかと思ってたのに」
「銃を向けられてたんじゃ、怖くてできねえよ。それに・・・・・どうせならまとも
にやった方が後腐れなくていいだろ?」
ジンは、ジョウスケの皮肉を軽口で返しながら構えを取る。
「・・・・・・そういうつもりかよ。まあいいさ、おいマユを頼むぞ」
 そう言ってジョウスケは、半壊したヴァルスティオンを別なヴァルスティオンに渡
す。
「こっちだって余計な被害はもう出したくないからな。やってやるさ」
ジョウスケの方も、ジンに触発されて銃を構えて対峙する。その最中、ジンはカズエ
との通信をさせるべくスイッチを入れ直す。すると、案の定カズエの怒声が聞こえて
きた。
「ジン!!アンタは何て事を――――」
「ああ!わかったって!!それより今からあいつのデータを分析しておいてくれ」
「データを?なんで・・・・・」
「俺の勘が正しければ・・・・・・奴の強さは、俺・・・・ヴァルゼリオン以上かもしれないか
らだ」
「え!?」
ジンの言葉は、カズエにとって何よりも大きな衝撃だった。だが、そんなカズエの驚
愕をよそに、二体の特機の、常軌を逸した戦闘が始ろうとしていた。








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