4th BREAK
『壮絶なる遊戯』

 イスルギ重工日本本
社の中にある『兵器実験室』。その中で、二人の男が何かのテストを行っていた。
「テスト終了。被験者『ジョウスケ・キザキ(城崎 譲介)』は、シミュレータから
離脱してください」
 室内に反響する電子音声を聞いて、コクピット型のシミュレータの中にいた男、
ジョウスケは、勢いよく飛び出してきた。
「よっしゃ。おーわりー」
 ジョウスケは、まるでテストが終った直後の学生のように声を出し、ラジオ体操で
も、するかのように体や腕を動かしながら、近くでシミュレーションの結果を計測し
ている者達に顔を向ける。
「どう?頑張ってみたけど、いい感じだった?」
「このようになりました」
ジョウスケの陽気な声とは対照的に、計測者は言葉少なにデータを開示した。その時
・・・・
「あ・・・・・ありえん!!」
 計測者の横にいたもう一人の被験者『シンイチ・フルミヤ(古宮 真一)』がデー
タを見ると同時に、興奮して立ち上がり、ジョウスケに怒鳴りかかってくる。
「お前、一体何をやった!!こんな事がありえるか!!」
「なんですか?別に俺は、いつものように出てきた標的を撃ってただけっすよ?」
 シンイチの怒鳴り声に目を丸くしながらも、ジョウスケは答える。だが、シンイチ
は、その言葉で納得できなかったのか、それともジョウスケの答え方が悪かったの
か、今だ怒りが収まらないようだった。
「いつものようにだと・・・・・。それでこんな数字が出せるか!!」
 シンイチは、表示されているデータに一度目を向け、もう一度ジョウスケを睨む。
「見ろ!100%だ!!破壊率100%だぞ!?元・連邦の兵士だった俺が75%
だったというのに、こんな事がありえるか!!」
「で・・・でも、本当に何もイカサマなんかしてないっすよ!!」
「そんなはずあるか!!正直に白状しろ!!」
 いつのまにかジョウスケの襟首を掴み、今にも噛みつかんばかりに激昂するシンイ
チと、その勢いに飲まれて必死に弁解するジョウスケ。その時・・・・・・
「彼の言っている事は本当だ。」
 自動ドアが開くと同時に聞こえてきた声に、その場にいた全員がドアへと目を向け
る。
「クロウド博士・・・・・」
「だから、彼から手を離すんだ、シンイチさん」
「・・・・・・・・チッ」
 クロウドと呼ばれた科学者らしき男の言葉に従い、シンイチは渋々とジョウスケか
ら手を離し、部屋から出て行った。
「ああ、怖かった・・・・・。あんがと博士」
「気にしないでくれ。今の君は我が社にとって、役員各位の次に価値のあると言って
も過言ではない存在だ」
「はいはい。わかってるよ・・・・・。ところで、博士。あんたが来たって事は
・・・・」
「ああ。ようやく『アレ』の準備が終わった。それで君のデータを拝見するついでに
君を呼びに来たというわけだ」
「マジで!?」
クロウドの言葉を聞くと同時に、ジョウスケの顔が表情が一変した。喜色満面のその
顔には、さっきまでの怯えた表情は全く見られなかった。
「じゃあ、見に行ってもいいんですか?」
「ああ。どうせなら先に行っててもいい。私はデータの確認をしていくからな」
「オッケーッ!!」
 その言葉と同時に、ジョウスケは自動ドアにぶつかりかねない勢いで廊下へと飛び
出していく。その様子を見て、シンイチは体を震わせながら、憎々しげに呟いた。
「何でなんだ・・・・。何であんなガキみたいな男が!!」
その言葉とともに、シンイチは顔を紅潮させながら、部屋を出て行った。それを横目
で見ていた一人の研究員がクロウドに話しかける。
「いいんですか?彼はきっと納得していませんよ・・・・」
「いいんだよ」
 クロウドは笑みを浮かべて呟く。
「いつか実際にあの力を見たならば、あの軍人崩れも少しはわかるだろう。ジョウス
ケと自分の『生物』としての格の違いを・・・・」


「全員退避!!全員退避せよ!!」
 イスルギ重工・台湾支局 台北(たいぺい)工場には、大気を震わせるかと思うほ
どの警報と怒号や悲鳴が飛び交っていた。
 工場内で働いていた人々は、必死になって我先にとばかりに工場の外へ逃げ出して
いた。そして人々の後方には彼らが逃げ出す理由・・・・・・・工場を襲撃、破壊するヴァ
ルゼリオンの姿があった。
ヴァルゼリオンは、工場敷地内を縦横無尽に歩き回り、自らの近くにある建物を、無
造作に手足を振り回して破壊していった。
 無論、その暴挙を食い止めるべく、イスルギの防衛用AMが数機出撃したが、ヴァ
ルゼリオンの暴力の前には十分ももつ事無く撃墜されてしまい、遂に台北工場は完全
な廃墟と化してしまった。
 人々は、巻き上がる黒煙と爆炎、そして自らが流した恐怖と嘆きの涙越しに飛び
去っていくヴァルゼリオンを見つめた。そこに映る黒き巨体の威容は、それを見てい
る人々の心に大きな畏怖を刻み込んだ。
だが、それと全く逆にヴァルゼリオンの中にいるジンとカズエの気分は上々だった。
「今回も難なく終わったわね、ジン」
 カズエは、ヴァルゼリオンを上空に待機させていたヴァルリーフに収納し、コク
ピットから降りてきたジンに声をかけた。ジンもカズエの声に対して笑みを浮かべな
がら返事をする。
「ああ。でもあれじゃ、はっきり言ってヴァルゼリオンの慣らしにもならねえな」
「なに言ってんのよ。最初の頃と比べたらかなり動きが違うわよ?今回なんか、慣性
制御とかを使わなかったじゃない」
「そりゃあな。26箇所も工場襲って、敵機と戦ったら動きもこなれてくるさ」
「それもそうよね」
少々間の抜けた受け答えに、ジンもカズエも笑い出す。だが、ふとカズエの表情に影
がさす。
「どうしたんだ?」
「ん・・・・・ちょっとね」
「なんだよ、気になるからはっきり言ってくれよ?」
「・・・・・さっきの事を思い出してね・・・・・」
「さっき?もしかして工場を壊した事か?」
「ええ・・・・・」 
ジンの言葉に頷いたカズエの表情が、目に見えて暗くなった。
「さっきの・・・・・いえ、今まで壊した工場の人達の顔・・・・・ヴァルゼリオンを睨んでい
たわ・・・・・。怒りと悲しみを表して・・・・・」
「・・・・・・・」
「確かに、今私達がしている事はイスルギを止める為に必要な事だって言うのはわ
かっているわ・・・・・・。でも、そんな事はただの社員である労働者には関係ないわ
・・・・・」
 カズエは、言葉を呟くだけにもかかわらず、とても苦しそうにしていた。それを見
ながらも、ジンはただ黙り続ける。
「彼らはただの生活者よ。普通の生活をして、普通に家族の幸せを願っているだけの
・・・・・。彼らからしてみれば、私達なんかただの侵略者に過ぎないのよね・・・・・」
「それが・・・・・嫌になったのか?」
「それもあるわ・・・・・。けど、何よりも違和感を感じたのは、そんな事をしている自
分に罪の意識が感じられない事なのよ・・・・・」
「罪の・・・・」
「何の関係も無い人々を苦しませているのに、それに対して罪の意識を感じるどころ
か、イスルギを倒せる可能性が大きくなっているって喜んでさえいるのよ・・・・・」
自分の行っている事がよほど許せないのか、喋りながらもカズエはその目に涙を滲ま
せた。それを見たジンは、ただカズエを見守るしかなかった。
正直な所、ジンにとっては、カズエのこの反応は予想外だった。ジンにとってもカズ
エにとっても大切な存在であったナオトが殺されたのだから、なりふりかまっていら
れるはずが無い。そんな事はカズエもわかっているはず・・・・・それがジンの想像だっ
た。
だが、カズエは人々を犠牲にするのに嫌悪の感情すら覚え始めていた。やはりカズエ
は非戦闘員のため、何かを破壊する事に対して割り切る事が出来なかったのだ。
(仕方がないか・・・・)
ジンは小さく溜息をした。だが、それはジンがカズエを見限ったという類の物では無
い。ジンは、うつむくカズエに見を乗り出して呟く。
「じゃあさ、行くか」
「え?」
「行こうぜ。日本に」
「えっ!?」
 ジンの言葉が、あまりに予想外だったのか、カズエは顔を上げた。よほど驚いたの
か、その目に滲んでいた涙さえ、ほとんど無くなっていた。
「ジ・・・・・・ジン?もう一度言ってくれない?」
「だからさぁ・・・・・・、日本の本社に攻め込もうってんだよ。カズエさん、もう他の工
場に攻め込むの辛いんだろ?」
「で・・・・・・でも、そんなことして大丈夫なの?まだ基地だって半分くらいしか
・・・・・・」
「充分だ。それだけ壊せば何とかする事だって出来る。それに俺もヴァルゼリオンに
も慣れてきたし、しかもラッキーな事に、PSFを使える時間も、少しずつ延びてい
るし。これならよっぽどの事がなけりゃ、やられはしねえよ」
「本気なの・・・・・・?」
「ああ、本気だ。それにもう決めた事だ」
 ジンの言葉に、決意の固さを感じたのか、それともあきれてしまったのか、カズエ
はただ沈黙していた。その様子を見たジンは、笑いをかみ殺しながら背を向ける。
「じゃあ問題無しって事で。とりあえず俺は寝るわ。後ででいいから、ヴァルリーフ
をどっかの島に着陸させといて」
「あ・・・・・・うん」
「二人とも疲れてるし、明日は丸一日休もうぜ。明後日は日本に行くから充分に休息
しとかないとな。じゃ、お休み」
「お・・・・・お休み」
 ジンは、あっけに取られたカズエを尻目に、ソファーベッドに寝転がった。これ
で、少しでもカズエの心労が取れたら良いと思いながら・・・・・・。

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