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| 3 「うー・・・あー・・・・えっと・・・・」 イスルギ本社の特 別会議室。十名の若年兵達の前に立ったジョウスケは、緊張のあまり言葉に詰まって いた。救いを求めて、列席しているクロウドへ視線を送るが、クロウドは静かに視線 をずらすだけだった。 ジョウスケは、クロウドの態度を見て、はばかる事無く溜息をつく。 (くそ〜・・・・・・。俺こういうの苦手なのによ・・・・・・。いくら私設特別部隊の隊長に なったからって、わざわざ部隊員の前で挨拶する必要あんのか〜?) 彼の心の声が言っていたように、ジョウスケはその戦闘能力を高く評価され、ジンと ヴァルゼリオンを捕獲するための部隊、『イスルギ重工 私設特別部隊(通称 石動 刃 追跡部隊)』の隊長に抜擢されたのだった。 しかし隊長になったはいいものの、人を指揮する事など経験した事の無いジョウスケ は異常に緊張してしまい、着任の挨拶をする事すら出来ずにいた。 そんなジョウスケの心の叫びなど、他の人間に通じるわけも無く、目の前にいる兵達 はジョウスケの事を見つめていた。 (そんなに見られたって、何もねえよ・・・・・・) 完全に言葉が出ずに焦るジョウスケ。その時、もう駄目だと感じたのか、クロウドが ジョウスケの隣へと、咳払いをしながらゆっくりと歩み出てきた。 「すまんが彼は、こういうのは苦手でな。ここからは私、クロウド・サカキが話を進 めさせてもらう」 そう言いながら、クロウドはジョウスケに目配せする。ジョウスケは助かったと思い ながらそそくさと自分の座っていた場所に戻っていく。 「まずは君達の搭乗する機体の簡単な説明から始めよう。では手元にあるディスプレ イに目を向けてくれ」 クロウドの言葉とともに、ディスプレイに一つの機体が映し出された。その機体は、 ジンが搭乗しているヴァルゼリオンに酷似していたが、フォルムがリオンシリーズの ようになっていた。 「これが君達が登場する機体『ヴァルスティオン』だ。この機体には、通常のコク ピット仕様にしたドミニオン・システムをつんである。重力と慣性の制御はレバーと ボタンでできるので、特別な技能などがなくても動作可能だ。武装も選択式なので、 通常のAMやPTと同じ感覚で扱えるだろう」 兵士達は、クロウドの言葉を聞いてすぐさまメモをとり始めた。無論、ジョウスケだ けは話を聞いているものの、メモを取るほどの真剣さは欠片も無かった。 クロウドは、それを横目で確認しながらも、注意することなく次の説明に入った。 「それでは次の説明を始める。次の機体は、隊長機の――――――」 「ちょっと待ってください!!」 クロウドが隊長機の説明を始めようとした時、突然大声を立てながら会議室に入って くる者がいた。その場にいた全員の視線が集まったその先にいたのは、ジョウスケと ともに被験者として機体開発に参加していたシンイチだった。 だがクロウドは、入ってきたシンイチを一瞥しただけで、少しも驚く事無く視線を外 し、溜息をつきながら呟く。 「一体どうしたんだシンイチさん。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ?」 「それはわかっています・・・・・・。ですが、それを押してでも、計画の責任者であるク ロウド博士に頼みたい事があるのです!!」 「頼みたい事?」 「はい!!」 気合の入った返事とともに、シンイチはクロウドに向かって、突然土下座をした。 「自分がやっていることが恥だとは理解しています!!しかし・・・・・それでも私はあ の機体・・・・・特別部隊の隊長機である『ヴァルレオン』のパイロットになりたいので す!!」 「そうか・・・・・・(暑苦しい男だ・・・・・・)」 クロウドは、あまりにも暑苦しいシンイチの性格に辟易し、適当に返事をするが、す ぐさま追い返すような真似はしなかった。むしろ、シンイチがここへ来た事自体をあ ることに利用しようとしたのだ。 「よし、君の熱意はよくわかった。だったらチャンスを与えよう」 「チャンス!?」 「そうだ。君にはジョウスケと直截戦ってもらう」 「えーっ!なんで!?」 突然のクロウドの発言に、ジョウスケは驚愕する。しかしクロウドはジョウスケの言 葉を聞き流していた。 「知っているだろうが、ヴァルレオンは本質的に敵機であるヴァルゼリオンと同系機 だ。その為、操縦方法もB.D.Lを使用している。その為、操縦者の実力が高けれ ば高いほどその性能を引き出す事ができるのだ」 「なるほど・・・・・・つまり、私がジョウスケを倒せたのなら・・・・・・」 「そう。君はジョウスケよりもヴァルレオンのパイロットに相応しい事を証明できる ・・・・・・というわけだ。無論それはジョウスケにもいえることだがな。どうするかな、 シンイチ?」 「やります!もちろんやりますとも!!」 「ハア・・・・・・しかたねえな」 クロウドのその場の思いつきとしか思えない提案に、シンイチは完全に納得してい た。ジョウスケは、アホ臭いと思いながらも重い腰をあげ、シンイチの目の前に対峙 する。 「めんどくさいしトイレに行きたくなったからさ、ここでやりましょうよ。もちろん 得物もありの、手加減なしで」 「なんだと?・・・・・・」 二人の間に緊張が走る・・・・・・といってもシンイチの方だけが一方的に敵意を剥き出し にしていて、いつ襲いかかってきてもおかしくない状況だった。それを察してかクロ ウドは既に隊員達を会議室の壁際に非難させていた。 「いまさら後悔しても遅いからな!!」 シンイチは、右腰につけていた大型コンバットナイフを抜いた。そのナイフは訓練用 に、刃を硬質ゴムでできたカバーをかぶせていて切る事も刺す事もできないものの、 ナイフの硬度と強度に変わりは無く、下手をすると受けた部分の骨を骨折する代物な のだ。しかし、それを見せられてもなお、ジョウスケの顔から余裕は消えなかった。 「確か・・・・・・シンイチさんって、ナイフコンバットでしたっけ。つまり本気ってわけ ですか・・・・・・」 「当たり前だ。貴様を倒して、ヴァルレオンの正式パイロットになるためならばな ・・・・・・」 「なるほど、そこまで必死なんですね・・・・・・。でも・・・・・・」 ジョウスケは、着ているジャケットのポケットに手を入れる。 「俺も引くわけにはいかないんでね!!」 その瞬間、ジョウスケの目が別人のように輝いた・・・・・・。 数十秒後・・・・・・・・・・・・・・・・ 「う・・・・・あああ・・・・・・」 会議室中に響く小さなうめき声以外に、誰も声も物音も立てられなかった。その場に いる殆どの者が、目の前で起こった出来事を信じる事ができず、ただ沈黙するしかな かった。 「悪かったね、シンイチさん」 その戦いに勝ったのはジョウスケだった。ジョウスケは既に武器をポケットにしまっ て、倒れているシンイチに向かって声をかける。 「手加減無しって言いましたからね。有言実行って事で」 ジョウスケは笑みを浮かべているが、シンイチに反応は見られなかった・・・・・・と言う よりも反応を返す事ができないようだった。 ジョウスケは、頭を掻きながら少々困った顔をした後、遠巻きに見ている隊員達に顔 を向ける。 「・・・・・・と言う訳で、これから君達の正式な隊長になったジョウスケ・キザキだ。こ れから仲良くしてくれよ。じゃ、俺はトイレに行ってくるから」 ジョウスケは、驚愕を隠せない隊員達を尻目に、無邪気な笑顔を浮かべて挨拶し、 堂々と会議室を出て、トイレに駆け込んだ。 そして・・・・・・ 「あ〜、すっきりした」 ジョウスケは、手を備え付けのペーパーで拭きながら外へ出た。その時・・・・・・ 「あの・・・・・・」 「うわっ!?」 トイレから出てきた瞬間に、いきなり横から声をかけられ、ジョウスケは驚きの声を あげる。その驚きぶりに、声をかけた人物も動揺していた。 「あ・・・あの・・・・・・大丈夫ですか?」 「あ・・・・、うん」 ジョウスケは、照れながらも顔をあげて、声をかけてきた人物を見る。そこにいたの は特別部隊の制服を着た可愛らしい少女だった。その少女の面影にはいまだ幼さが 残っていて、ジョウスケには着ている制服が似つかわしくなく感じたが、人それぞれ 事情があるものと思い、それを胸の内にしまい、何気ない顔をしながら少女に話しか ける。 「で・・・・・なんか用?」 「実は・・・・ジョウスケさんに、少しお話したい事が・・・・・」 「話?」 「はい。ジョウスケさんにしか話せないことなんです」 その言葉を聞いて、ジョウスケは再び驚く。今まで生きてきて、女性に頼りにされる ということが一度も無かったからだ。一瞬、よからぬ考えが頭をよぎったが、それを 必死に振り払い、平静を保ちながら返事をする。 「わかったよ。でも、とりあえず場所を移らない?トイレの前でってのはちょっと な」 「あ・・・・そ、そうですね・・・・」 少女は、自分が今までいた場所に気づき、顔をうつむかせ、紅潮した。ジョウスケ は、そのしぐさを可愛らしく思いながら、少女と一緒に廊下を歩き出した。 4 ジョウスケは、突然、頼みたい事があると言い寄ってきた少女を連れて、清涼飲料 水の自動販売機の設置してある休憩室にやってきた。 「なに飲む?おごるよ?」 「え?でも・・・・・」 「いいからいいから」 「じゃあ・・・・・ブラックコーヒーをください。ミルクも無しで」 「渋いね・・・・・」 ジョウスケは、少女の嗜好に少々面食らいながらも言われた通りにブラックコーヒー を購入し、自分用にコーラを購入した。 「はい、どうぞ」 「ありがとうございます」 ジョウスケは、少女にコーヒーを渡して、共に設置してあるベンチに座り、互いに飲 み始める。だがジョウスケは、本当に少女がブラックを飲むのか気になって、コーラ を口にしながらも何度も視線を少女に向ける。しかし少女は、本当にそれが美味しい らしく、少しも苦そうな表情を見せなかった。 「あの、ジョウスケさん・・・・・」 「え?!な・・・・・何?」 突然向けられた視線と言葉にジョウスケは、慌てふためきながらも、何とか平静に見 せる。 「そろそろ・・・・話を始めてもいいですか?」 「う・・・うん、いいよ。どうぞ」 「ありがとうございます・・・・・」 少女は、ジョウスケのやさしい態度に礼を言った後、突然うつむき、話を始めた。そ の様子は、まるで喋る事自体が辛いかのようだった。 「もう遅れましたが、私の名前は『マユ(真悠)』と言います。話と言うのは・・・・・ ジン・イスルギについての事なんです」 「ジン・イスルギ?」 いきなり出てきた名前にジョウスケは、またまた驚く。いくらこのマユという少女が 特別部隊の隊員だとしても個人的な用件でその名を聞くことになるとは思っていな かったからだ。 それと共に、ジョウスケはマユの言いたい事が予測した。きっとマユは、ジン・イス ルギに大切な人を殺されるか何かされたのだろう。特別部隊を造らせるほどの人間だ からそれくらいやるはずだ。だから仇を取るのを手伝ってくれというはずだ・・・・・・。 それがジョウスケの頭の中の一連の流れだった。 (なるほど・・・・・このマユって娘も大変だな・・・・・。こりゃ、ちゃんと手伝ってやらな いとな) 既に、ジョウスケの頭の中ではマユは、とてつもなく悲惨な人生を味わっていること になっていた。そんな事など全く知らないマユは、ジョウスケに話を続けた。 「実は、ジン・イスルギの事を―――」 「いいって、最後まで言わなくて」 「え?」 突然言葉をさえぎられ、マユは困惑するが、それに気づかないジョウスケは笑顔で語 りだす。 「大丈夫。ちゃんと俺が君の仇討ちの手伝いしてやるからさ」 「か・・・・仇?」 「そうそう。ちゃんと反撃できないように、きっちりとぶちのめして・・・・・」 「ぶちのめさないでください!!」 マユは、顔を真っ赤にして立ち上がりながら叫んだ。だが、ジョウスケは彼女がなぜ 怒り出したか理解できない。 「ど・・・・どうしたの?」 「どうしたのじゃないですよ!!何でそんなことをするんですか!!」 「何でって・・・・違うの?」 「違います!私は『ジン・イスルギを殺さないでください』って言いたかったんです !!」 「は?」 マユが言っている事が自分の予想と全く正反対と言う事実に、ジョウスケはまたま た驚く。しきりに湧き上がってくる違和感をごまかす為に、貧乏ゆすりをしながら再 びマユに声をかける。 「じゃあ聞くけど・・・・・なんでジン・イスルギを?」 「肉親なんです」 「ん?」 「兄なんです。ジン・イスルギは・・・・・」 「・・・・・・・・・・・」 ジョウスケは、いきなりの核心をつく言葉の意味を完全に理解できず、心を落ち着 けるために視線を外してコーラを喉に流し込み、深呼吸を二、三度行う。 ようやく意を決したジョウスケは、視線を泳がせながらマユに目を向ける。 「あの・・・・・・・」 「はい?」 「俺が聞いたままを要約すると、君は会長の・・・・・・」 「はい。娘です」 そのマユの言葉と同時に、ジョウスケは驚きのあまりコーラの缶を床に落とした。幸 いほとんど中身が入っていた無かったため、服も床も汚す事は無かったが、マユにど れほど動揺をしたのかを伝えるには十分だった。 「ど・・・・どうしました?!」 「い・・・・いや、あまりに突然で驚いて・・・・・」 「すいません。別に秘密にしていたわけではなかったんですが・・・・・・」 「気にしないでいいよ。それよりもどうして君は特別部隊に入ったの?」 ジョウスケは、床にこぼしたコーラの缶を拾いながらマユに話を続けさせる。マユ は、ジョウスケの様子を気にしながらも話を続ける。 「わかりました・・・・・・・。私がこの特別部隊に入ったのは、多分ジョウスケさんが 思っている通りです」 「じゃあ、やっぱりお兄さんのジン・イスルギが関係あるんだ」 「そうなんです。私は、兄ともう一度会うためにこの部隊に入りました」 「会うため?」 「兄とは3年前から顔を会わせるどころか、声を交わす事もありませんでしたから ・・・・・」 「それって、DCに入ったから?」 「はい。兄さんは、家を出る為に偶然日本に来ていた父の取引相手であったビアン総 帥に直訴して、特別にDCに入隊させてもらったんです。そこからは・・・・・・」 「なるほど・・・・・でも、一つ聞いていいかな?」 「なんですか?」 「何でジンは、家から出て行きたかったの?」 ジョウスケは、少し疑問に思った点を軽い気持ちで聞いてみた。だが、それをジョウ スケが口にした瞬間、マユの表情がこわばった。 「ど・・・・・どうしたの?もしかして聞いちゃいけなかった?」 ジョウスケが心配そうに顔を覗き込むと、マユは小さくうなづいた。 「すいません・・・・・。私の口から話すのは・・・・・・・」 「そっか・・・・・・」 マユのその言葉だけで、ジョウスケは彼女と彼女の兄であるジン・イスルギの身の上 に起こった事をある程度察した。それと同時に兄に会いたいと願うマユの辛さも ・・・・・・。 もはや、聞き捨てるわけにも行かないこの状況に、ジョウスケは腹をくくった。 「わかった。ジン・イスルギを殺さなければいいんだろ?」 「そうです。けど・・・・・いいんですか?」 「ああ大丈夫だ。要は、殺さずに戦闘力を奪えばいいんだからな。それじゃあ、これ から一緒にがんばろうぜ」 「あ、はい!」 そう言って、ジョウスケは立ち上がりマユに笑みを向けて手を差し出す。そのあま りに無邪気な笑顔には不安を抱えていたマユも、悩むのを一時忘れて、笑顔で手を握 り返した。 その時、(大変な事になったもんだ)(ちゃんと助けてやら無いとな)という言葉 が、ジョウスケの頭に同時によぎった。 |
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