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| 9 全てが頭の中に入ってきた・・・・・。色も、形も、音も・・・全て がヴァルゼリオンの機体越しにジンの脳内に止め処無く入ってきて・・・更に、同時 に全てを理解できるのを感じていた。 PSF・・・・・カズエが名づけたその特殊能力が、脳を活性化させ、この感覚を 引き起こしているらしい。そしてこの能力によってジンはヴァルゼリオンを自在に動 かせるのだ。 この能力を理解し、使えるようになったのは最近だが、この感覚自体は、ジンにとっ ては目新しい物ではない。 高校を辞める直前の喧嘩で数十人相手にした時・・・・・。 DC入隊時にジーベル・ミステルに銃を向けられた時・・・・・。 たった一人で、機地を占拠しようとする連邦の歩兵部隊と戦った時・・・・・。 この感覚が出た時は目の前の敵が死ぬか、再起不能になるか、ほぼどちらかだっ た。 そして今、ジンは目の前の二体のPTを破壊し、パイロットであるメリエルと言う女 と、トウマと言う男を殺すためにその力を解放した・・・・・。 「アアアアアアッ!!!」 ジンは、起き上がりかけているノイアイゼン目がけ、右拳を振りかぶって襲いかか る。 「クッ!!」 メリエルは、咄嗟にスウェーをして、横薙ぎに振るわれるヴァルゼリオンの右拳 を、両腕で受け止めた。ヴァルゼリオンは自分の攻撃の勢いと慣性で大きく態勢が崩 れる。 「甘いわね。そんな――」 メリエルがジンの無策な攻撃に対して挑発しようとした時、言葉より速く、ヴァル ゼリオンの拳がノイアイゼンの頭部に襲いかかった。 だが、ただ拳が襲いかかって来たわけではない。ノイアイゼンが今受け止めた右拳 だったのだ。 「ウラァァァァァッ!!」 ジンは咆哮しながらノイアイゼンに、先程の復讐とばかり拳と蹴りを叩きつける。だ がノイアイゼンの時と違うのは、ヴァルゼリオンの猛攻を防げてないと言う事だっ た。メリエルは、ノイアイゼンより巨大なヴァルゼリオンの拳や蹴りを両腕でガード しようとするが、なぜか防御した所に攻撃は来ず、防御の開いた所のみに拳や蹴りが めり込んできた。無論その一撃は、ノイアイゼンを凌駕しており、一撃入るごとに装 甲が歪んでいった。 ノイアイゼンは、ヴァルゼリオンの猛攻に耐え切れず、膝を屈してしまった。無論ジ ンは、それでも微塵も躊躇する事無く、拳と蹴りを途切れる事無く叩きつける。 「キャアアアアアッ!!」 「メリエルちゃん!!」 その不思議な光景に驚いて、立ちすくんでいたトウマだったが、メリエルの叫びを 聞いて、咄嗟にヴァルゼリオンに襲いかかって来た。 「!!」 その時、トウマは自分の目を疑った事だろう。メリエルを助けようと向けたはずの オクスタンランチャーの銃身が、なぜか、こちらを見てすらいないヴァルゼリオンの 手に握られていたのだから・・・・・。 「うるせえよ・・・・・!!」 ジンは、一言呟いてオクスタンランチャーを奪い取り、それを棍棒代わりにシュバ ルツリッターを薙ぎ払い、銃底を叩きつけると、シュバルツリッターは吹き飛んだ。 「てめえは後だ。まずはこっちを始末してからだ」 ジンはオクスタンランチャーを放り捨て、膝をついて動けなくなっているノイアイ ゼンの角を右手で掴んで、引き上げた。 「お前らの命なんか、興味ないからどうでもいいがな、ぶっ殺さねえと大切な人が殺 されるんだよ。さっさと死んでくれ」 「だからって!!」 ノイアイゼンは、一矢でも報いようと右拳を撃とうとする。だが、それは避けられ るどころか、肩が少し動いた時にヴァルゼリオンに掴まれて、攻撃を阻止されてい た。 「えっ!?」 「無駄だ。お前の攻撃は、出した瞬間に何が来るかがわかるんだよ」 ジンは、言葉とほぼ同時に、ノイアイゼンの胸部に左足で膝蹴りを入れる。しかも 膝を入れると同時に、ノイアイゼンの角を離したため、機体は、転がりながら大きく 後方に吹き飛んだ。 「うぐっ!!」 コクピット内で体を激しく打ちつけたのか、メリエルは苦悶の声を漏らす。 「痛いか?だろうな。いくら対衝撃用スーツをつけているとはいえPT程度には、パ イロット保護用の慣性制御システムも着いてないだろうしな」 冷徹に言葉を叩きつけるジンに萎縮したのか、メリエルは、一言も発さずに沈黙して いた。 「ハッ・・・。どうやらビビって、口も利けないみたいだな。わかった。時間も無い し、そろそろ殺してやる」 ジンは、そう言い放って、倒れているノイアイゼンに歩み寄る。すると・・・ 「冗談じゃ・・・・ない!!」 メリエルの叫びと共に、ノイアイゼンは再び起動し、起き上がりざまに、ヘッドスプ リングの要領でヴァルゼリオンの頭部目がけて渾身の蹴りを放った。 高質量の金属同士が衝突する音と砕ける音が響く。ノイアイゼンが放った渾身の蹴り は、ヴァルゼリオンの頭部にヒットしていた。 「やった・・・・」 メリエルは、その様を見て、自分の勝利を実感した。だがその時、思いもよらない事 態が起きた。 ヴァルゼリオンの頭部を破壊したはずのノイアイゼンの右足が、砕けていたのだっ た。その足は、膝が曲がり、脛から下は裂け、足首などは砕け散って原形を留めてい なかった。 「え?あ?」 あまりにも予想外の事態に、メリエルはそれ以上の言葉を発せられずにいた。 「どうした?まさか、殺したとでも思っていたのか?」 ジンは、砕け散ったノイアイゼンの足を掴む。 「確かにあそこから蹴りが出せるとは思わなかったから少しは驚いたけどな・・・・。だ が、お前の足が当たる瞬間に、スウェーして回避した。ついでに、頭に重力を集めて 頭突きをしたんだよ。お前らの乗っているPTと違って、こっちは全身が凶器だから な」 「そんな・・・・そんな事ができるわけ・・・・」 「できるんだよ、俺には・・・・」 そう言ってジンは、ノイアイゼンの足を持ち上げて宙吊りにする。 「俺の脳は特別なんでな・・・・・。五感に入ってくる情報全てを同時に処理する事 ができるようになっている。その中でも、敵の動きを見る為の『視覚』、空気の流れ を感じるための『触覚』、関節の動きや飛来する物体を感知する『聴覚』。これをフ ル活用すればどんな攻撃もあたらねえし、例え防御されてようが、その隙間に拳や足 をねじ込む事ができる。わかんだろ?俺の言っている意味・・・・」 その言葉を聞いてメリエルは、ノイアイゼンを操縦できないほど体が震えだし始め た。それはメリエルが、戦場で恐怖をはじめて覚えた恐怖だった。同時に、自分がこ のジン・イスルギと言う男に敵わない事を理解した。それは機体の差と言うレベルで は無い。ジンと自分とは、存在そのものの『格』のような物が違っているとしか思え なかった。 「さあ、そろそろ終わりだ・・・・・。できるだけ痛い思いをしてな!!」 ジンは、ノイアイゼンの足を持ち、機体そのものを振り回し、地面に音速を超える 速さで叩きつけた。 「!!」 メリエルの体に、スーツ越しにシートベルトが食い込む。その痛みの為、メリエル は叫ぶ事ができない。 「おい、安心してんじゃねえぞ!?機体とパイロットが砕け散るまで叩きつけてやる !!」 ジンは、その言葉どおり、ノイアイゼンの足を持ったまま、ありとあらゆる方向へ音 速を超えた速さで振り回し,叩きつけた。 ノイアイゼンの装甲は完全に歪み尽くし、原型がなんだったのかを判別する事すら難 しくなってきた。それと同時に、コクピット内のメリエルの生命も危険に晒されてい た。 PTのパイロットは対衝撃スーツを着て身を守るものの、もはやそれは意味を成して はいなかった。メリエルは常軌を逸した衝撃に、呼吸もままならず、体中の骨が悲鳴 を上げた。 「そろそろクライマックス行くか!!」 その言葉とともに、ジンは空中高く飛び上がった。 「特別サービスだ。無料でスカイダイビングを楽しませてやるよ!!」 ジンは、雲すらも下に臨む高度からノイアイゼンを地面に向かって投げつける。ノ イアイゼンは、数秒もしないうちにジンからは目視できなくなっていた。 「さあ・・・・終わりだ!!」 ジンは、ノイアイゼンを完全に破壊するべく、急降下を始め、更に同時にヴァルゼ リオンの右掌に極限まで重力を集め、重力の塊を握りこんだ。その為、右拳はブラッ クホール化寸前で、ヴァルゼリオンが通過した場所には、空間の歪みが軌跡の様に連 なっていた。 「見えた!!」 ジンは、着地の衝撃で既に半壊しているノイアイゼンを目視する。それに止めを刺す べく、ジンは一度拳を引き、半壊したノイアイゼン、そして瀕死のはずのメリエルが いるコクピットに狙いをつけた。 その時・・・・ 「させるかあっ!!!」 「!?」 突然シュヴァルツリッターが、ノイアイゼンを庇ってオクスタンランチャーを手に してヴァルゼリオンの前に立ちはだかった。 操縦者であるトウマは、力量差と機体差の激しすぎるヴァルゼリオンの前に立ち、 覚悟を決めて叫ぶ。 「メリエルちゃんは殺させない!!例え僕の命を犠牲にしても!!」 「プッ・・・・馬鹿か、てめえは!?」 「何っ!?」 「お前は犠牲にもなれねえよ!!なんせ二人一緒に俺に殺されるんだからな!!」 トウマの決死の覚悟すら嘲笑い、ジンは更に加速する。 「じゃあな!!カラス野郎!!怨むんなら自分の馬鹿さ加減を怨んでろ!!」 「!!!」 ジンはシュヴァルツリッターごとノイアイゼンを破壊する為、右拳を放つ。トウマ は、最接近してきたヴァルゼリオンを撃ち落そうと、ヴァルゼリオン目がけてオクス タンランチャーを両手で構えて撃った。 だが、あろうことかヴァルゼリオンは、オクスタンランチャーの弾丸に拳をぶつけ た。既に高重力の塊となっているヴァルゼリオンの拳は、弾丸ごとオクスタンラン チャーを砕き、シュヴァルツリッターの顔面を撃ち抜いた。 「うわあっ!!」 シュヴァルツリッターの頭部を完全に破壊され、コクピットの中のモニターが次々 と死んでいった。 「ちょっとだけ先に逝ってな!すぐにお友達を送ってやるからな!!」 ヴァルゼリオンの拳は、シュヴァルツリッターを貫通しながらノイアイゼンのコク ピット目がけて近づいていく。 既にノイアイゼンもメリエルも動ける状態ではなく、ジンの勝利は完全な物になっ ていた。 しかし・・・・ 「させるかぁぁぁぁっ!!」 「んだとぉ!?」 ヴァルゼリオンの拳がノイアイゼンに激突する瞬間、突如シュヴァルツリッターが ブースターの最大出力を出した。 「なんのつもりだ!?」 「言っただろう!!自分を犠牲にしてもメリエルちゃんを助けるって!!」 トウマは、シュヴァルツリッターのブースターを使い、ヴァルゼリオンの腕を方向 修正しようとしたのだ。 だが、今のヴァルゼリオンの腕にかかる重力はブラックホールになろうかというほ どである。シュヴァルツリッターのブースターの出力が、いかに連邦で最高峰に入る 物であったとしても、今のヴァルゼリオンの拳では、ただ機体を押しつぶしていくだ けでしかなかった。 しかしそれでもトウマは諦める事無く、ブースターの出力を高めながら絶叫する。 「ま・・・・負けるかぁぁぁぁっ!!」 「負けるかじゃねえっ!!お前はとっくに負けてんだよっ!!」 トウマの叫びすらかき消すような、ジンの無慈悲な咆哮が響き、ヴァルゼリオンの 拳がノイアイゼンの胸部を貫いた。 「あああっ!!」 「オラァァァァッ!!」 トウマの絶叫は、悲鳴へと変わった。そしてそれを再びかき消すかのように、ジン はもう一度咆哮し、倒れているノイアイゼンをシュヴァルツリッターごとごみのよう に放り捨てた。 ノイアイゼンもシュヴァルツリッターも、もう完全なスクラップでしかなかった。 二機とも大きく音を立てて地面にぶつかり、転がった。その様子を見るまでも無く、 ジンには両機がもう立ち上がってこない事を理解していた。 「へ・・・。てこずらせやがって・・・」 ジンは悪態をつきながら、活性化していた脳の状態を戻す為に気を静めた。数秒の 沈黙の後、ジンの感覚は、まるで何かが途切れたかのように沈静化していった。 「さあ・・・・今度こそカズエさんを・・・・・」 ジンは、急激な感覚の変化による一時的な変調を堪えながらも、カズエのいる支局 長室へ急いだ。 しかし・・・・。 「・・・・・・・あ?」 その時、ジンの目に映った物は意外な光景だった。カズエがいる支局長室が炎上して いたのだ。 「え?あ・・・え?」 ジンは、顔面蒼白になりながら、そこへと足を向けた。心身ともに乱れながらも、 円状する支局長室の中にあるガレキをヴァルゼリオンの手でどかしてカズエを探し た。 「そんな・・・・遅かったのか?」 ジンは愕然としながらも、タイマーに目をやった。だがそこに映る数字は、10分 を過ぎていなかった。 「え・・・・?まさかアイツ・・・・!!」 ジンは炎上する支局長室の中にある、ある物を見つけて体が震え出した。それは、 さっき破壊したばかりの、シュヴァルツリッターの固有兵器・オクスタンランチャー の破片だった。 「あ・・・ああ・・・・」 ジンは、あまりの衝撃に体中から力が抜けていった。その破片は、ジンが破壊した 為にこの部屋に飛んできたのだった・・・・。 あの時、回避をしておけば・・・・。しかし、それも後の祭りでしかなかった。ジ ンは、ただその場に膝を着いている事しかできなかった・・・・。 |
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