「アアアアアアアアアアアッ!!」
「ハアアアアアアアアアアッ!

!」
 ジンとメリエルは、互いに外部スピーカーのスイッチを切る事すら忘れて、相手に
向かっていった。
「いかせてもらうわよ!!」
 先手を仕掛けたのはメリエルだった。メリエルはノイアイゼンの背中に装備してい
たM950マシンガンを左手に装備し、接近しながらもヴァルゼリオンに射撃をして
きた。
「ぬるいぜ!!」
 ジンは、ばら撒かれる弾丸の軌道を即座に察知し、弾丸を跳躍して回避すると同時
に、そのままノイアイゼンの頭部目がけて、左足で胴回し回転蹴りを放つ。ジンは、
AMやPTの様な通常の機動兵器が、レバーとスイッチを介して、一定の行動を取る
物として作られている事を知っている。例えパイロットが反応した所で、機体が防御
行動を取る前にヴァルゼリオンの足がノイアイゼンの頭を砕くのは明白だった。
 しかし、ジンが足を振り上げると同時に、突如ノイアイゼンの後方からシュヴァル
ツリッターがロシュセイバーを手に持って接近してきた。シュヴァルツリッターは、
機体の動く方向をヴァルゼリオンの左側にずらし、剣道の胴を打つような動作で、振
り上げていたヴァルゼリオンの足、しかも大腿部にロシュセイバーを振るった。
(こいつ俺の足を?させるか!!)
 ジンは、とっさに慣性を操作し、右後方へ飛んで、ロシュセイバーを回避する。だ
が、ジンが飛んだ場所には、いつのまにかノイアイゼンが回りこんでいた。
「もらったわ!!」
 メリエルは、既にノイアイゼンのリボルビングステークをセットしていて、飛んで
くるヴァルゼリオンの背中を目がけ、絶妙なタイミングで放ってきた。
「クソッ!!」
 ジンは、背中にステークが突き立てられるより早く、右手で裏拳を放ち、ノイアイ
ゼンに叩きつけるが、ノイアイゼンの質量の重さと突撃の速度の為に、さっきの蹴り
の時と同じように、突撃を止める事が出来なかった。
「ウ・・・・ウオオオアアアッッ!!」
 ジンは、ヴァルゼリオンの出力を一気に高め、強引にノイアイゼンを弾き飛ばし
た。そして、そのままノイアイゼン・シュヴァルツリッター両機から距離を取った。
メリエルの方も、弾き飛ばされながらも体勢を整えて、再びシュヴァルツリッターと
立っていた。その様子を見て、ジンは大きく舌打ちをして呟く。
「そういえば、そっちの名前も聞いていないカラス野郎がいたんだったな・・・。あ

りの影の薄さに忘れていたぜ・・・」
「トウマ・ミナグチだよ。まあ今ので忘れられなくなっただろう?」
「まあな・・・。嫌らしい野郎だってのはわかった」
 ジンもトウマも、互いに相手に対して言葉での牽制を行う。すると、そこへメリエ
ルが口を入れてきた。
「ずいぶんと余裕があるみたいね、ジン・イスルギ」
「まあな。後はお前達を殺すだけだ。余裕も出てくるさ」
「よく、そんな強がりを言えたものね。あたし達のコンビネーションに翻弄されてい
たくせに・・・・・・」
「強がりかどうかは確かめてから言えよ」
 その言葉と同時に、ジンは、ノイアイゼンに向かって一気に間合いを詰め、左右時
間差無しの回し蹴りを放つ。
それに対してノイアイゼンは微動だにせず、ヴァルゼリオンの足は、ノイアイゼンの
両肩にヒットした。だが、確実に蹴りが入ったはずのノイアイゼンは、ダメージどこ
ろか微動だにすらしなかった。二倍の身長を持つヴァルゼリオンの攻撃を喰らったの
にも関わらず・・・・・。
(堅い?いや重いのか?蹴りは確実に入ったはずなのによろめきすらしない・・・)
「やっぱり・・・」
 メリエルは呟きながら、動きの止まっているヴァルゼリオンの足を掴んできた。
「確かめてみたけど・・・やっぱり強がりみたいね」
 その言葉と共に、ノイアイゼンがヴァルゼリオンの足関節を取って、足そのものを
壊そうとしてきた。いくらノイアイゼンのようなPTが、複雑な動きが不能だとして
も、ヴァルゼリオンの足程の大きさのものならへし折る事は容易なのだ。
「くっ!!」
 ジンはノイアイゼンの腕に力が込められる前に、地についている左足を上げ、ノイ
アイゼンの顔面に前蹴りを入れる。その蹴りの衝撃でノイアイゼンは右足から手を離
した。それを確認したジンは、蹴った反動を利用して間合いを取るため、後方へ大き
く跳びあがる。だが、ジンの動きに示し合わせたかのように、トウマの乗るシュヴァ
ルツリッターが絶妙なタイミングで飛び込んできた。
「それはちょっと甘すぎる!!」
 トウマは、ヴァルゼリオンを完全に捕捉し、至近距離でオクスタンランチャーの銃
口を突きつけてきた。
「この間合いだったら絶対に外さない!!チェックメイトってやつだ!!」
「どうだかなぁ!?」
 ジンは、その言葉と共に、もはやヴァルゼリオンの身長ほども距離の無い地面に向
かい急加速をかける。だがジンは地面に激突する寸前に慣性を操作し、着地の衝撃を
ほぼ無効化して跳躍し、瞬く間にシュヴァルツリッターの真下に入り込む。
「何っ!?」
「この近距離で真下に入られたら、お前の銃は役立たずだ!!」
 ジンの言葉どおり、トウマはオクスタンランチャーを使ってヴァルゼリオンを退け
る事は不可能だった。シュヴァルツリッターのオクスタンランチャーは、遠距離用射
撃兵器であるがゆえ、砲身が長いうえ発射までほんの少しの間がある。
そのためにトウマは自分から接近した事が仇となり、ジンに容易く懐に入れられた。
「お前、読みが甘すぎるぜ!まあ、死ぬ奴に言っても遅いけどな!!」
「くそっ!!」
ジンは、トウマを直接殺そうと、シュヴァルツリッターのコクピット目がけて右腕で
アッパーを放った。ヴァルゼリオンの速さは、人間の知覚神経を越えていて、既にト
ウマには、ロシュセイバーでの切り払いどころか、回避をする暇(いとま)も無かっ
た。
シュヴァルツリッターに吸い込まれるかのごとく打ち出された拳を見ながら、ジンは
既にトウマの死を確信していた。だがその時、突然、衝撃と共にヴァルゼリオンの腕
の動きが止まった。いや、腕だけではない。足も、体も、頭すらも動かす事が出来な
かった。
 ジンは、突然動かなくなったヴァルゼリオンの体に目を落とし、驚愕する。ヴァル
ゼリオンの体には六本の鎖が体に巻きついていた。その見知らぬ鎖に雁字搦めにされ
て、ジンは戸惑う。
「な・・・なんだこの鎖!?」
「トライアンカー・・・・」
 ジンは声が聞こえた方向へ目を向ける。そこには両肩からヴァルゼリオンの動きを
封じているトライアンカーという名の鎖を射出しているノイアイゼンがいた。
「どんな武器かは・・・わかるわよね?」
 メリエルは、小さく、だがハッキリと呟くと、両肩のチェーンを高速で巻き取り始
めた。更に、それと同時にノイアイゼンの頭部の角がプラズマエネルギーを帯びて青
白く輝きだした。
 ジンは、プラズマで輝くノイアイゼンの角を見て、背中に冷たい物が伝うのを感じ
る。そのことを知ってか知らずか、メリエルは、冷徹に呟いた。
「怖がる事は無いわ。コクピットを一撃で潰すから。苦痛を感じる前に体は蒸発する
はずよ」
 ジンは、メリエルの呟きにを感じとれ無かった。確かにメリエルは確実にコクピッ
トをあの角で突き刺しに来るだろう。だが、ジンはその状況で笑いを浮かべた。
「そいつは良かった・・・・。だけどな―――」
 その言葉と共に、ジンは巻き取っているトライアンカーに逆らう事無く、逆にヴァ
ルゼリオンをノイアイゼンに向けて急加速させた。
「えっ!?」
 メリエルは、ジンの動きを予想していなかったのか、その動きに戸惑い、一瞬隙を
作ってしまった。無論ジンは、その隙を見逃す事は無い。
「お前如きに殺されるわけにはいかねえんだよ!!」
「くっ!!」
 メリエルは、向かってくるヴァルゼリオンに向かい、必死にプラズマホーンを突き
出す。だがそれも無駄な抵抗でしかなかった。
 ジンは、突き出されるプラズマホーンを右半身で避けつつ、左手でノイアイゼンの
後頭部を掴む。
「メリエルちゃん!!」
 メリエルを助けようと、トウマはヴァルゼリオンに向かっていくが、もうジンの攻
撃を止める余裕は無かった。ジンはそれを横目にしながらメリエルに対して叫ぶ。
「コクピット潰したいんだっけ?俺は嫌だから、代わりに潰れてみてくれよ!!」
 憎まれ口と共に、ジンは左の膝をコクピット部分に叩きつける。それと共にノイア
イゼンは、膝蹴りの直撃箇所が爆発した。ジンは、撃ちこんだ左膝を戻し、鎖を引き
千切って間合いを取り、今度はシュヴァルツリッターに向かい拳を構える。
「お前・・・・・よくもメリエルちゃんを!!」
 トウマは、メリエルを殺されて、機体越しにもさっきが伝わってくるほどに激怒し
ていた。だが、その怒りもジンの心には全く響かない。
「へえ・・・・・。女を殺されて、怒り心頭ってか。そんなんじゃ、戦場だとやって
けねえぞ?」
「うるさい!!大切な人を殺されて、黙っている人間がいるかよ!!」
「だったら黙ってねえで、さっさと来いよ!!」
「当たり前だぁぁぁぁぁっ!!」
 トウマは、咆哮と共にロシュセイバーを振り上げ、ヴァルゼリオンに襲いかかって
来た。
「くたばれぇぇっ!!」
「けっ!!」
 ジンは、大上段から振り下ろされるロシュセイバーを受け止めようと左手を出す。
しかし、ジンは突如シュヴァルツリッターに背を向けた。
「何!?」
 ヴァルゼリオンは、掌に圧縮展開したGウォールで直撃寸前の攻撃を受け止めた。
だが、その攻撃はシュヴァルツリッターの物だけではない。ジンは左手でシュヴァル
ツリッターのロシュセイバーを受け止め、右手で背後から飛んできた『拳』を受け止
めた。
それはヴァルゼリオンの背後から襲ってきた破壊したはずのノイアイゼン、そして死
んだはずのメリエルからの攻撃だった。メリエルは攻撃を受け止めたヴァルゼリオン
を見て、悔しそうに呟いた。
「やるわね・・・・・。完全に不意をついたはずなのに・・・・・」
「あれだけ殺気出してりゃ馬鹿でも気づく・・・・・それにしてもリアクティブアー
マーとはな。PTの命の機動力を殺してまでつけるもんじゃねえぞ?・・・・・」
「開発者が、ちょっと特殊なのよ。その腕前に比例してね!!」
「なるほど・・・・・こっちと同じってわけか!!」
 ジンは、受け止めていた拳とロシュセイバーを下へ払い、そのまま空中に逃れた。
「だが、もうコクピットを守るリアクティブアーマーはねえ!今度こそコクピット直
撃の一撃をくれてやる!!」
「それはどうかしら?トウマ、アレでいくわよ!!」
「え?あ、うん!!」
「モード変更!!高速格闘戦モードへ移行する!!」
 メリエルの声と共に、ノイアイゼンは機体中についている外装と武装の殆どをパー
ジし、マニュピュレーターをスライドした装甲が覆った。肩のアンカー射出装置まで
パージしたせいか、機体のフォルムは完全に変わり、今までの重装甲の火力重視型か
ら軽装甲のスピード重視型へと変貌していた。
「行くわよトウマ・・・そしてノイアイゼン!!」
 メリエルが呟くや否や、シュヴァルツリッターの援護射撃と共に、ノイアイゼンが
先ほどまでと全く違う速度で、ヴァルゼリオンに襲いかかって来た。
 ジンは、飛んでくる弾丸を回避しながらも、咄嗟に迎撃しようとヴァルゼリオンの
左拳を突き出す。だが、狙った所には既にノイアイゼンの姿は無く、次の瞬間、ヴァ
ルゼリオンの腹部に、強烈な衝撃が走った。
 それは、ノイアイゼンの放ったアッパーだった。メリエルは、ヴァルゼリオンが
撃ってきた左拳をその下に潜り込んで避け、そのまま懐に入ってショートアッパーを
決めてきたのだ。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
 ヴァルゼリオンの懐に潜り込んだノイアイゼンは、コクピットのある腹部を目がけ
両拳をマシンガンのように叩きつけた。ジンは、打ち込まれる拳を少しでも防ぐべ
く、拳と腹の間にヴァルゼリオンの腕をねじ込んで防御に徹する。打ち込まれる拳に
耐えながら、ジンは一計を案じる。
(いくら格闘専用になったところで、操作方法はPTと同じだ・・・・。だったら格
闘戦
の際に必要な動きは再現しきれていないはずだ。そこをつけば!!)
 ジンは、形勢逆転を狙い、まるで攻撃に耐えられないかのように膝をついた。
「とどめ!!」
 メリエルは、ヴァルゼリオンを粉砕するべく、頭部目がけて大振りのストレートを
撃ってきた。
「かかったな、素人が!!」
ジンは、咄嗟に左手を地面に置き、そこを軸にして足払いを放った。ヴァルゼリオン
に使われているB.D.Lのような人間の動きを再現するシステムでもなければ、足
元への突然の攻撃にはPTやAMは、操縦のシステム上、対処できないのだ。そして
足さえ払って転倒させれば確実にコクピットを潰し、殺すことができる。ジンは十分
すぎるほどの確信と勝算を持って足払いを放ったのだ。
だが・・・・
「素人?どっちが?」
「何っ!?」
その時、ヴァルゼリオンの足が当たるよりも早く、ノイアイゼンは前方へ小さくジャ
ンプして足払いを回避した。そして、足払いを外して背中を向けているヴァルゼリオ
ンの背中に、踵を叩きつけた。
ヴァルゼリオンは、その一撃で、地面にうつ伏せの状態で倒れ伏せる。そこへノイア
イゼンは、何の躊躇も無くヴァルゼリオンの上に馬乗りになる。
「知らなかったでしょうけど、ノイアイゼンは格闘戦用モードになると操作形態が変
わるのよ。実践用に想定されている何百ものパターンをボタンの組み合わせで再現で
きるようにね・・・」
「けっ・・・それじゃあ、まるで格闘ゲームのキャラだな!?」
「そうかもね。でも、あなたは、その格闘ゲームのキャラに殺されるのよ」
 そう言ってメリエルは、ヴァルゼリオンの背面部に両拳を乱打する。いくらヴァル
ゼリオンの装甲が堅強に作られているとはいえ、背面を集中攻撃されては耐え切れな
いのは明白である。
「くそっ!!」
 ジンは、ヴァルゼリオンを襲う殴打の嵐に堪えながら、右腕でノイアイゼンの右足
を掴む。
「なめてんじゃねえぞ!!この女(アマ)!!」
 ヴァルゼリオンとノイアイゼンの全長差を利用し、ノイアイゼンの足を掴んで無理
やり引き剥がす。
「ウッ!!」
「メリエルちゃん!!」
トウマの叫びとほぼ同時に放り投げられたノイアイゼンは、受身も取らずに地面に叩
きつけられた。メリエルが衝撃に苦しみ、それをトウマが心配している間に、ジンは
何とかヴァルゼリオンを立ち上がる。
「なるほど・・・・・確かに嘗めていたみたいだな」
ジンは呟きながらも、タイマーを映す。タイマーは戦闘開始から6分を切っていた。
「あと三分か。仕方ねえ・・・・・『全力』で行く!!」
 そう呟いたジンの目には尋常ならざる殺気が渦巻いていた。

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